「髪は巻かなくて結構です。メイさん、いつもありがとうございます」
イザベラの専属メイドはメイという名前だった。
彼女は私がお礼を言うと少し驚いたような顔をした。

彼女が縦巻きロールに髪を仕上げようとするのを断ったのは、流石に準備が大変そうだからだ。
彼女には朝から入浴の手伝いをしてもらい、メイクを施して頂きたくさん彼女のお世話になっている。

今日はライト公爵と王宮に出向かなければならない。
婚約者になったルブリス王子殿下に会うと思うと気が重い。
私は、同年代の男の子と会話が成立したことがない。

「イザベラお嬢様、では髪をそのまま下ろしましょうか?お纏め致しますか?」

「いいえ、このままで結構です。お気遣いありがとうございます」
髪の毛が邪魔に感じたが、纏め髪というのをしたことがなく大変そうだと思い断った。


王宮でルブリス王子と顔合わせが行われることになった。
薔薇に囲まれたガーデンテーブルに向かう。
今日は国王陛下、ライト公爵、ルブリス王子と私で婚約者の顔合わせをする予定だ。

黒髪に翡翠色の瞳の美少年、彼がこの小説の男主人公でありヒロインの運命の相手ルブリス王子殿下だ。
「ルブリス・ライ王子殿下にイザベラ・ライトがお目に掛かります」
私は声が震えるのを抑えながら挨拶した。