「サイラス様がドライだと感じたことはありません。私の前で素の自分は曝け出せませんか?私はサイラス様のどのような面も見てみたいです」

私がそういうと、彼はチェスボードを出してチェスを並べはじめた。

「あまりにイザベラが可愛いおねだりをしてきたので、私の企みを少し明かしましょう。私が1番良いと思っているこれからの展開は、イザベラの話していた小説のように愚かなピンク髪のヒロインとルブリス王子がくっついて、婚約が破棄されることです。そして、そのままルブリス王子には次期国王になってもらいます。王妃があの愚かな女性ならライ国は終わりです。私は婚約破棄されたイザベラを手に入れた後、ライ国も手に入れられます」
淡々とチェスの駒を並べながら語る彼はいつもの優しい顔をしていない。

「待ってください、それだとライ国のエドワード王子に嫁ぐ予定のレイラ様はどうなるのですか?」

「先程、お話しした最高の展開はエドワード王子とレイラが組んだ時点で有り得ません。エドワード王子は国王の器の持ち主で、レイラも女王になる器を持った存在です。当然、ルブリス王子を引き摺りおろす機会を逃す2人ではありません。おそらく、ルブリス王子はこれからヘマをします。彼は一番近くにいる弟のエドワード王子が自分の敵であることにさえ気がつけない愚か者です。ピンク髪のヒロイン、フローラ・レフト男爵令嬢の本質にも気がつけないでしょう。イザベラがライ国に戻るのは最終学年です。それまでにルブリス王子がレフト男爵令嬢と近づいたらどうなると思いますか? 周りは彼の耳障りの良いことしか言わないと思います。でも、心の中では必ず彼に反発します。イザベラは最初は人質という形でルイ国に連れて来られたと皆考えております。アカデミーにいるのは皆未来の臣下たちです。ルブリス王子は気が付かない間に彼らの信頼を失うと思いますよ。ルブリス王子が堕ちて行った時、イザベラだけ奪う方法を考えているのですが中々思いつきません。ルブリス王子がイザベラの価値に気が付かず、婚約破棄をしてくれるのが一番簡単です。だから、イザベラは彼に自分の魅力を隠してくださいね」

私に魅力があるように言ってくるサイラス様に恥ずかしくなってしまう。

「心の中で思っていることと、声に出すことは違うのですね。人の心がわかればどれだけ良いかと、いつも思います。サイラス様もですが王族の方は、私に今の言動はあなたを試そうとしたとおっしゃることが多いです。実は、その試そうとしたという答えを聞くまで、言動の意図に気がつけたことがありません」

「私たち王族は疑い深く、人のことを試してばかりです。でも今の言動は試そうとしたと言わせてしまうのは、イザベラだけだと思います。イザベラの前だと、試すような言動をした自分が汚く見えて罪悪感のあまり試し言動をしたことを暴露してしまうのです。イザベラは凄い人なのですよ。ルイ王族の心をあなたは浄化していっています。人の心が分れば良いと考えるのは、あなたが優しいからです。ちなみに、私が知りたいのはイザベラの心だけです。イザベラは今何を思っていますか?」

彼の心を今の私は読めていた。
彼は私にサイラス様が好きだと声を出して言ってほしいのだ。
しかし、私にはまだその勇気がなかった。

「チェスを覚えてみたいなと考えています。サイラス様と一緒に楽しめたらと思いまして」
私は考えていることとは、全く別のことを言ってしまった。

突然、サイラス様が私の前髪をかきあげ、額に口づけをしてきた。
私は焦っておでこを手でおさえる。
「いかが、なさいましたか?サイラス様」