「イザベラ、ライト公爵家は王家と繋がりが深い、だからお前と同じ10歳のルブリス王子と婚約することになった」
目を開けると、そこは私が小説で読んだ世界だった。
目の前にいるライト公爵の瞳には赤い髪に黄金の瞳をした可愛らしい少女が映っている。
縦巻きロールがトレードマークのイザベラ・ライト公爵令嬢だ。

私はこの小説のヒロイン、フローラ・レフト男爵令嬢に憧れていた。
貧しい男爵家の生まれを笑われ、虐められても強く生きるフローラ。

明るく友達も多くて優しいフローラにルブリス王子は恋に落ちる。
しかし、私が転生したのは彼女を虐める悪役令嬢のイザベラだ。

卒業パーティーでフローラを虐めたと断罪されるルブリス王子の婚約者。
イザベラは婚約を破棄され、身分を剥奪され、国外追放される。

「あの、婚約はしなければなりませんか?」
恐る恐る聞く私に当たり前のようにライト公爵はこたえた。

「当たり前だろう、お前もルブリス王子と婚約したいと言っていたではないか」

イザベラの父親であるライト公爵の言う通りだ。
小説ではイザベラはルブリス 王子に一目惚れして彼を追いかけ回す。
私は同年代の男の子になんて、虐められた記憶しかなく近づきたくない。

「イザベラお嬢様、皆様、もうお揃いになっています」
メイドが私を呼びに来た言葉に、体が震えだした。

イザベラは連日、取り巻きとお茶会をしているのだ。
私は同年代の女の子たちに虐められた記憶しかなく、彼女たちに会うのが怖い。

「また、お茶会をしているのか。再来年からアカデミーに入学するのだから、少しは勉強しなさい。お前は次期王妃になるのだから」

「お茶会よりも、勉強がしたいです。あの、令嬢たちはもういらっしゃっているのですよね?」

「イザベラ、今日はどうしたのだ。勉強がしたいのなら、令嬢たちは帰らせるか?」

「いえ、わざわざご足労頂いたのに帰らせては申し訳ないので挨拶だけでもして参ります」
私はメイドに案内を頼み、令嬢たちの元へと急いだ。

「イザベラ様、ルブリス王子殿下とのご婚約おめでとうございます」
お茶会の会場に到着して、すぐに言われた言葉に硬直する。
どうやら、ルブリス王子との婚約は決定事項のようだ。


「皆さま、今日は遠いところからわざわざお越し頂きありがとうございます。誠に勝手で申し訳ございませんが、私は足りないものが多い人間です。皆様を楽しませるような時間を作れません。これから、勉強をしていきたいと思いますので本日のところはお帰り頂けませんでしょうか」
私はどう令嬢たちと接してよいか分からなかった。

せっかく来てもらったのに申し訳ないが、彼女たちには帰ってもらうことにした。
私はおかしな事を言って、虐めのターゲットになるのが怖かったのだ。

令嬢たちと結託してヒロイン、フローラを虐めるのがイザベラ。
だけれども、虐めは自分がされて嫌だったから絶対したくない。
虐められるのは怖いけれど、虐めるのはもっと嫌だ。