「戦争、戦争だけは避けてください。何も生み出さない愚行だと私は異世界の経験より知っています」
私は一触即発だというライ国周辺の状況に怖くなった。

「もちろん、戦争は避けるつもりです。しかしライト公爵家の人間は綾さんとは無関係です。万が一、彼らが危機に直面してもイザベラが心を痛める必要はありませんよね」

戦争が起こる可能性を否定しない、サイラス王太子殿下の口ぶりに恐怖心が抑えられない。

「ライト公爵も公爵夫人も、公爵家で働く使用人達もかけがえのない大切な人です。皆さん私にたくさん親切にしてくださいました。彼らに危害が及ぶようなことだけはして欲しくないです」

私がそう言った瞬間、サイラス王太子殿下が私の唇の端にキスをしてきた。

「な、何をなさるのですか?」

私は前世でも経験のないことに、目が回ってパニックになってしまう。

「お許しください。自分でもこのような衝動を抑えきれない人間だとは思ってもいませんでした。イザベラが愛おしすぎて、心より体が先に動いてしまうのです。どのような状況下でも、あなたの守りたいもの全てを私は守ると誓います。口づけをしようとして申し訳ございませんでした。今後は衝動を抑えられるように耐えますので、どうかご容赦ください」

「あの、唇を避けて頂いたことは理解しておりますので」

私が震える声でサイラス王太子に伝えると、彼はにっこりと微笑んだ。