「あんたがさっさと定期を渡さないから死んだのよ。ブスのくせに東京とか行っていいと思ってんの。この、公害女。あんたには、本当にアッタマきてんのよ。まあ、最近つまらなかったし、ヒロインになって王子様と結ばれる人生も良いかもね。また、たくさん虐めてあげるから楽しみにしててね」

憧れていたヒロイン、フローラに憑依したのは私を虐め抜いた女だった。
私はその事実に震えが止まらない。

新しい人生を与えられ、悪役令嬢に転生したことを恐れた。
それでも、素敵な人たちに出会えて幸せな気分になれたりもしていた。

でも、私はどこの世界に行こうと、人のストレス発散のマトになる地獄から逃れられないのだ。
私の頰を熱いものがつたうのが分かった。

「イザベラ様、国王陛下がお呼びですのでお連れします」
突然、優しい声が聞こえて振り向くと、私を温かい眼差しで見つめるサイラス王太子殿下がいた。

「あ、はい、今、参ります」
私が涙を手で拭おうとすると、サイラス王太子殿下がハンカチを渡してくる。
他国の王太子に、私を呼んでくるように国王陛下が頼んだのだろうか。
とても不敬な気がするが、今はここからすぐにでも立ち去りたいので黙ってサイラス王太子殿下の手をとった。

「ちょっと、話してる途中なんですけど、待ちなさいよ」
私の腕をつかもうと、フローラが手を伸ばしてくるのが分かった。
あんなに憧れていたヒロインなのに、白川愛が憑依しているからか鬼の形相に見える。

「痛い、あんた何するのよ」
その時、サイラス王太子殿下がフローラの手首を捻りあげているのが見えた。
見たこともない冷たい目つきをした彼に私は思わず息をのむ。

「ルイ国の王太子に対して、無礼な口の聞き方をなさる方ですね。国を通じて正式に抗議をしたいので、名前を名乗るくらいはして頂けますか?」
空気が凍りつくようなサイラス王太子殿下の声に、フローラが後ずさった。