彼は王子でなくてもモテそうなほど、美しく穏やかな人だ。

「さあ、どうでしょうか。私は、立太子することに集中していたので分かりません。でも、運命の女性が現れたら、すぐに分かるものなのだと今は実感しています。イザベラ様は私にはあなたが10歳の女の子には見えない瞬間があります」

サイラス王太子殿下が私をじっと見つめながら言ってくる。
彼の青い瞳に戸惑った真っ赤の顔をした私が映っていて、思わず凝視してしまった。
揶揄われているとは分かっていても、私はこういったやり取りに全く慣れていない。

「お兄様、イザベラ様が魅力的なのは分かりますが、流石にそれは話がややこしくなるのでやめてくださいね。せっかく2人の兄を退けて王位を勝ち取ったのに、面倒なことを起こさない方が良いですよ」

「確かに、イザベラ様を巡った戦争が起きかねませんね。サイラス王太子殿下はルイ国の成人年齢である21歳には国王に即位するとお聞きしましたが、婚約はまだされないのですか? やはり、側室を取れないルイ国だと慎重にはなるかと思いますが」

レイラ王女とエドワード王子が、まるで私が魅力的かのように言ってくれる。
今まで、そのようなことは言われたことがいので胸が詰まってしまう。
私から見れば、今目の前にいる3人は堂々としていて輝いていて手の届かない存在に見える。

「今まで、私は女性には興味がないと思っていたんです。でも、今はたった1人の愛おしい人と一緒になりたいと思っています。イザベラ様、留学の件は考えてみてください。レイラは王女という立場もあり、仲の良い友人がいません。あなたと姉妹のように過ごしたいという彼女の願いを兄としては叶えてあげたいと思っております」

サイラス王太子殿下が私をまるで愛おしそうに見つめてくるので、勘違いしそうになる。

「ふふ、お兄様は人を利用するのが本当にお上手ね。イザベラ様、ルイ国はいつでもあなたを歓迎するわ。」

私はレイラ王女の提案にのりたくなった。
最終学年である3年生にはライ国のアカデミーに戻らなければならないが、それまではヒロインとルブリス王子と接触しないで済む。

そして、中学校のようなアカデミーという場所に行くのが怖いのは事実だ。
学年が違っても、アカデミーにレイラ王女がいてくれるのは心強い。
私には今まで、このような心強い味方になってくれるような人はいなかったからだ。

「私、ルイ国に留学したいです。父と相談してみます。その際はどうぞよろしくお願いします」
私が言うと、なぜだか3人が嬉しそうに小さくアイコンタクトをとった。

「そうそう、エドワード王子はアカデミー入学前に私と婚約してしまいましょうね。エドワード王子殿下もお兄様と同じく、女性ではなく立太子することに集中したいのでしょう。王女との婚約は女性除けには使えますよ。それでは、イザベラ様、再来年お会いしましょうね。再来年会ったときは、私たちは姉妹です。あなたをイザベラと呼び、妹のように可愛がるので覚悟しておいてください」

レイラ王女の言葉に私は胸がときめいた。