もし、こんな辛い目に遭うのが他の誰かだったら……そんな最低なことを考えてしまう自分に嫌気がさすと、湊人が急に止まる。


「ちょ、何止まって!」

「静かに」

「むっ」


口元を押さえつけられた。

視線をまた移せば、そこにはド派手な格好をしたいかにも不良がいた。


「いいか、お前はここにいるんだぞ」

「……」


そんなことできるほど、おとなしい女なわけないじゃない!

しかも私はあの不良たちとなんの関係もない。

湊人が不良たちの方へ行ったことを確認し、私は反対方向に走って行った。

の、だが……。


「……お前かぁ?三神の女は」

「……は?」


三神の女?冗談じゃない。


「そ、そんなわけないじゃないですか。人違いです……!」

「いいやそんなわけあるな、来い」


手首を掴まれそうになる。けどその手をバッと振り払った。

自分の長い黒髪が揺れる。


「生意気な……!!」


男の手が私に伸びてくると、髪を掴まれた。が、痛みなどない。

これはウイッグなのだ。


元水無瀬財閥の令嬢だなんて知れば……どんなことになってしまうか、わからないから。

これはお母さんの考えである。


「なっ……お、お前水無瀬財閥の!!」


ぐっと拳に力を込めて、一撃を入れる。

すると男は気絶してしまった。