遡ること10年前。

私が7歳の時の話だ。


大好きな、男の子がいた。その子は優しくて困ったら助けてくれる、ヒーローみたいな人。

そう……それが、コイツ。今目の前にいる三神湊人だ。


そして、今から3年前。私のお父さんの会社を潰したのもコイツ。


私は勉強して頑張って入った高校に通わせてもらうべく、1人でバイトをしながら暮らしていた。

家族は両親に弟1人。生活は厳しい中でも、高い学費を支払ってくれている両親には感謝以外言葉がない。



だけど……コイツさえいなければ、こんなことにはなっていなかった。



「相変わらず生意気な女」

「ちょ、やめて……!!」


ぎゅっと手首を掴まれる。

恐怖に怯えて目を瞑ると……唇に柔らかい感触が走った。


「……え」

「迎えに来たぞ、彩」

「……は?何言ってんの」


ありえない……コイツ私にキスしたの?

今度は何をしようって言うの……!?怖い怖い、誰か助けて……!


そんなことを思ったって今までいた執事やボディーガードはいない。


「ふざけないでよ!!」


湊人の手を振り払った。

怒りでいっぱいだった。


「アンタのせいでどれだけ私たち家族が苦しんでるか知ってる!?お父さんの努力を返してよ!!」

「彩、それは悪かった。お前を——」

「調子乗らないで!!」


パンッと言う音と共に、正気に戻った。


目の前には顔を真っ赤に腫らした湊人と……ざわめく野次馬たち。



「ねぇ、あれ三神様よね?」

「今のビンタした女、何?」


なん、で……?

みんな知らないから、勝手にそう思ってるだけ……!悪いのは全部湊人なんだから……!!



「来い」

「い、嫌離して……!!」


ぎゅっと掴まれた手首は解放されることなく、人が少ない方へと連れて行かれる。

港の銀色の顔の方に視線を移せば、銀髪がサラサラと風に吹かれていた。


なんで、私だったんだろう……。