私はそんな様子を見てみることしかできなかったのだ。

護身術や空手を習った理由の一部でもあった。


……て、やめよう。私は湊人のこと嫌いだし。


「あなたは……ああ、水無瀬彩ちゃんね」

「お久しぶりです」

「大きくなったわねぇ、ところでなんでいるのかしら」

「……言いましたよね?俺を後継にするなら彩を婚約者にするって」

「ああ、そうねそうね、忘れていたわごめんなさい!彩ちゃんは優秀だし、湊人にふさわしいものね!」


ピクッと上瞼が動いた。

やっぱり……この親は嫌いだ。


「じゃあ家入るかしら?」

「いえ、お母さんに彩が婚約者だということだけ自覚していただきたかったのでもう帰ります」

「そう、ああ、そうね、彩ちゃんに渡したいものがあるのよ」



一度お屋敷の中に入って、何やら重そうな紙袋を持って帰ってきた。



「これ、うちのしきたりと花嫁として当然にできなければいけないことが書いてあるから、読んでおいてね」

「……はい」


渡された紙袋を両手で持つ。

すると湊人が気を使ったのか、そっと紙袋を持ってくれた。


「……ありがと」

「ん、じゃあ帰るぞ」


湊人のお母さんに頭を下げて、振り返った私たちは歩き始める。

すると……。


「あら?恋人って聞いていたのだけれど……勘違いだったのかしら」

「……彩」


手を差し伸べられる。

握りたくはないけれど、人が傷つくところはみたくない。

大人しく手を握りしめた。