次の日、博雅が大慌てで、晴明の屋敷に向かっていた。
それを察知したのは、街に放たれている、珱姫の式神だった。
式神は、すぐに珱姫に伝えに行った。
「博雅様が、大慌てで、こちらに向かっております。」
「博雅様が?
何の用かしら…。
また、さつきのことかしら?」
「そこまでは分かりません。
申し訳ございません。」
「謝ることじゃないわ。
すぐに、晴明様にもお伝えして。」
「かしこまりました。」
式神は、晴明にも伝えた。
「大慌て…?」
「はい。」
「何やろ…。
すぐに、出迎えてくる?」
「かしこまりました。」
式神は、すぐに、門の所で待った。
「博雅様、本日は、何の御用でしょうか?」
「お…おお…!!
珱姫は…っ?!」
「珱姫様なら、晴明様といらっしゃいます。
ご案内いたしますね。」
「お…おお…っ!
頼む…っっ!!」
博雅は、すぐに、晴明達のとこに案内してもらった。
「晴明様、珱姫様、博雅様です。」
「ありがとう。
じゃあ、お酒とツマミを…。」
「いいっっ!
そんな時間ないのだ!」
「どうしはったん?
そんなに急ぎの話しなん?」
「そう!」
「なんや?」
「右大臣が、もうすぐ来る。」
「それが?」
「珱姫を宴に招待すると…!!」
「なんやって?!」
「わたくしをですか?!」
「そうだ。
この間、しずか殿のとこに行っただろ?」
「はい。
帝の命で…。」
「その時に、見初めたらしい!」
「見初めた。って珱姫は、僕の妻やで?!」
「右大臣には、それが効かない。
正妻も他の旦那がいたが、娶ったのだ。」
「そんな…。
嫌です!
わたくしは、晴明様の妻です。
晴明様以外の殿方なんて考えられません!」
「珱姫…。」
「しかし、右大臣はしつこいぞ?」
「それなら、僕も宴に…。」
「晴明も宴に呼ばれている。
でも、それは珱姫を引き出す為。」
「わたくし、はっきり申し上げます。
晴明様の妻だと。」
「それで通じれば良いが…。」
「帝はなんて?」
「帝は、珱姫は晴明のものだから、手には入らん!と…。」
「そうか。
分かった。僕ら宴に参加するわ。」
「いいのか?
晴明。」
「逃げても仕方ないやろ。」
「そうだな。」
「珱姫は絶対渡せへん!」
「わたくしも、晴明様以外の方は考えられません!」
こうして、右大臣の宴に参加することになった、珱姫と晴明。
博雅によれば、宴は今夜とのこと。
夜になり、宴の時間が近づいてきた。
右大臣から珱姫には牛車。
晴明には、籠が準備された。
2人はそれぞれに乗り、右大臣のもとに…。
右大臣は、珱姫を見ようと、牛車を待っていた。
牛車が来ると、恭しく出迎えた。
「珱姫。
ようこそ参られた。
さぁ、こちらへ。」
「右大臣様、今宵はお招き頂き、ありがとうございます。」
「なんと、美しい…。
お手を…。」
「大丈夫にございます。
晴明様が…。」
「そうです。
僕の妻ですから、右大臣様の手を借りるなんて、恐れ多いこと。」
「晴明様。」
「珱姫、手を。」
「はい。」
珱姫は、晴明に手を差し出した。
「宴の会場は、こちらだ。」
珱姫に手を避けられた右大臣はご立腹。
「晴明様、参りましょう。」
「そやな。」
夫婦揃って、右大臣の宴に参加した、晴明達。
珱姫の姿を見た者は、口々に美しい…。と言い、見惚れていた。
「珱姫とやら、あたくしの前に参られよ。」
そう言ったのは、右大臣の正妻。
珱姫は、正妻の前に行った。
「これは、右大臣様の御正妻、まつこ様。
今宵は、お招き頂き、ありがとうございます。」
「そなた、晴明の妻と聞く。
誠か?」
「はい。
わたくしは、晴明様の妻にございます。
わたくしの夫は、晴明様以外に務まる方はございません。」
「そうか。
なら、安心した。
もし、右大臣に輿入れを言われても、揺るぐことはないな?」
「はい。
ございません。」
「良い良い。
今宵の宴を楽しんでおくれ。」
「はい。」
珱姫は晴明の隣に戻り、晴明にお酌した。
「珱姫もいただきなさい。」
「はい。」
珱姫は晴明と、食事をし始めた。
その時、珱姫の背後から、正妻の娘のみつこが声をかけてきた。
「珱姫様。
わたしは、正妻まつこの娘、みつこです。
父が、貴女の踊りを拝見したいとのこと。
踊ってはいただけませんか?」
「踊りですか?」
「そうです。」
「分かりました。」
「珱姫、踊れたん?」
「はい。
踊れますよ。
ちょっと、踊って来ます。」
そう言って、珱姫は立ち上がった。
「珱姫。
さぁ、こちらへ。」
右大臣は、恭しく珱姫の手を取ろうとした。
「右大臣様。
大丈夫です。
晴明様、ご覧になってくださいね。」
「う…うん…。」
珱姫は、太鼓と笛の音に合わせて、踊り始めた。
その姿は、天女が踊っているかのように、美しかった。
誰もが見惚れている中、晴明は不安そうに見ていた。
踊り終えると、拍手喝采を受けた珱姫。
「晴明様。」
珱姫は晴明を呼んだ。
そして、席まで案内してもらい、右大臣の目論見は敗れた。
「いやぁ、晴明の奥様は、踊りも踊れるとは…。
凄いですな。」
右大臣に招かれた、招待客が話しかけてきた。
晴明は照れた。
「奥様は才色兼備ですな。」
珱姫は照れた。
そこに現れたのは、右大臣。
珱姫に文句を言おうとすると、まつこが止めた。
「右大臣。
あたくしの機嫌を損ねる気ですか?
あたくしは、珱姫の踊り、とても、素晴らしかったと思います。
何の叱責が必要でしょう?
あたくしは、必要ないと思いますが?」
右大臣は正妻の元に帰った。
正妻のお陰で、宴は何事もなく終わった。
帰る時、正妻が、晴明達に牛車を準備してくれた。
2人は、それに乗って帰って行った。
次の日の午後、みつこが晴明の屋敷に来た。
それも、沢山の荷物と共に…。
珱姫の式神が、中庭に通した。
「珱姫。
出て来られよ。」
珱姫は中庭に出た。
あまりの荷物に珱姫は驚いた。
「これは…どうされたのですか…?」
「これらは、父から珱姫宛の贈り物です。
珱姫、受け取っていただけますよね?」
「申し訳ございませんが、お受け取り出来ません。
わたくしの必要なものは、晴明様が購入してくださいます。
なので、必要ないのです。」
「これだけの物を要らぬと?!
父がどんなに悩みながら、購入したのかも分からないのに?
それは、失礼じゃありませんか?」
「お悩みながら、購入してくださったことは、ありがたく思っております。」
「でしたら、お受け取りください。」
「お受け取りはできません。
晴明様の妻でありながら、他の男性からの贈り物を頂くのは、晴明様に申し訳なくなります。
右大臣様のこと。
晴明様が買えぬ様な代物ばかりでしょう…。
それを見た時の晴明様のお気持ちを考えると、頂く事は出来ません。」
珱姫とみつこの話しを聞いて、晴明が口を挟んだ。
「珱姫。
折角だから、頂きなさい。
僕は大丈夫やから。」
「晴明様…。
分かりました。
お受け取りいたします。」
「ふん!
初めから受け取れば良いものを…。
では、贈り物を運び入れます。」
みつこは、家来に言い、贈り物を全て部屋に入れた。
「こんなにあるんですか?」
「まだよ。」
贈り物は、部屋いっぱいにあった。
「こんなに…。
右大臣様にお礼を申し伝えください。」
「分かりました。
では、失礼します。」
みつこは、帰って行った。
晴明と珱姫は、あまりの多さに唖然としていた。
「これ、全部、わたくしの物なのでしょうか…?」
「多分…。」
「やはり、お断りした方が…。」
「いや、受け取らへんかったら、それこそ拒否されたとして、何されるか分からへん。
右大臣は、自分のものににしたい女性には、まず、贈り物を送りつけると聞いたことあったけど、ここまでとは思わへんかった。
とりあえず、1個ずつ開けていこうか…。」
「そうですね…。」
珱姫達は、式神にも手伝わせ、1個ずつ開けていった。
贈り物は、着物、反物から始まり、髪飾りや宝石、草履にまで、多岐にわたり送られてきた。
「これは…凄いですね…。
こんなに送られてくるなんて…。」
「僕もびっくりや…。
今度、お礼に行かな…。」
「そうですね…。
2人で行きましょう。」
「そうやな。」
次の日、早速お礼を言いに、右大臣のとこを、訪れた2人。
女中が右大臣に珱姫が、向かっていることを伝えると、右大臣は大喜び。
「着いたら、早急に私の前に通しなさい。」
「はい。」
そこに、珱姫達が到着した。
珱姫達は、すぐに右大臣の前に通された。
「珱姫だけが来たのではなかったのか…。」
「珱姫は僕の妻ですから、一緒にお礼に伺いました。
いけなかったですか?」
「いや…。」
「右大臣様、昨日は沢山の贈り物を、ありがとうございました。」
「良い良い。
気に入ってくれたか?」
「はい。」
「それは良かった。」
「本日は、お礼を言いに来させて頂きましたので、これで失礼致します。」
早急に帰ろうとする珱姫を、右大臣は止めた。
「まぁ良いではないか。
まだ、ここに居なさい。」
「申し出はありがたいのですが、これから、晴明様と行かなければいけないとこがありますので…。」
「そんなの後で、良いではないか。」
「いいえ。
今日中との事ですので…。
失礼いたします。」
「仕方ない…。
珱姫達の牛車を呼びなさい。」
女中は、すぐに呼んだ。
「右大臣様、ご到着いたしました。」
「うむ。」
珱姫達は、右大臣に一礼して牛車に乗って帰った。
屋敷に着いた時、晴明が珱姫に声をかけた。
「行かないといけないとこ。って、どこのことや?」
「勿論、そんなとこありません。
ああでも言わないと、帰してくれなさそうでしたので…。」
「嘘やったん?」
「はい。
でも、このまま、吉備のお屋敷に行っても、良かったのですが…。」
「吉備の屋敷?」
「はい。
天体観測にぴったりの場所ですし。」
「そうやな…。
最近、行ってなかったし…。
行こうか。」
「では、準備しますね。」
珱姫は式神を10体だし、準備をさせた。
そこに、博雅が来た。
「晴明。
今日は、賑やかだな。
何があった?」
「これから、しばらく吉備の屋敷に行くことにしたんや。」
「こんな急に?!
帝の許可は?」
「今、わたくしの式神が聞きに行ってます。」
「どうして、吉備になんか…。」
「あそこは、天体観測にいいんや。
綺麗に見えるし、邪魔するものもない。」
「しかし…。」
そこに、珱姫の式神が帰って来た。
「どうだった?」
「はい。
帝の許可はお取りしました。」
「そう。
良かったわ。」
「右大臣様に目をつけられた事を、お話ししましたところ、早急に行くが良い。と申されていました。」
「そう。
ありがとう。
晴明様にも伝えて。」
「かしこまりました。」
式神は、晴明にも帝の言葉を伝えた。
博雅は、何とかここに残ってもらおうとしたが、2人の意志は強く無駄だった。
準備が終わった頃、右大臣が晴明の屋敷に来た。
「帝から聞いた。
そちら、吉備にしばらく居る。と…。
これは、どういうことだ?
許されるはずないだろ。」
「大丈夫です。
帝からは許可が降りてますので。
僕ら陰陽師は、天体観測も必要なのです。
今回は、しばらく天体観測に行って来ます。」
「しばらくとは?
どのくらいだ?」
「そうですね…。
2ヶ月は吉備に行こうと思うてます。
夫婦の時間も、ゆったりと取りたいですから。」
「2ヶ月だと?!
帝が許しても、私が許さん!
都を守る陰陽師が、そんなに長く都を離れるなど、あってはならんことだ!」
「帝の許可はもらっているので、僕らの気持ちは変わりません。
そこ、危ないですよ?」
「わぁっ!
こ…こんなにっ!
荷物が多すぎるのではないのか?
運びきれんだろう。
諦めぬか?」
「大丈夫です。
わたくしの式神が、手伝ってくれますので。」
「し…しかし…。」
「晴明様、お荷物作れました?」
「僕は大丈夫やで。
珱姫は?」
「大丈夫です。」
「晴明!!
私は、行かさぬぞ?
右大臣として命令する!」
「右大臣より位の高い帝が許してるんで。」
「晴明!!
ここ屋敷はどうする?
2ヶ月も空いていたら、汚れるぞ?」
「大丈夫です。
わたくしの式神を。ここにも置いていくので、式神が掃除してくれます。」
「珱姫。
そんなに、式神を出して平気なのか?」
「はい。
大丈夫です。
晴明様、そろそろ…。」
「そうやな。
博雅、僕らが居らんでも、ここに来て酒飲んでええから。」
「晴明…。」
「じゃあ、行ってきます。」
2人が行こうとするのを、右大臣は最後の足掻きを見せた。
「良いか?
このまま行けば、お前達の位を下げるぞ?
良いのか?」
そこに、帝が来た。
「見送りに間に合った!
晴明、珱姫、ゆっくりしてくるが良い。
ん?
右大臣、ここで何をしている?」
「あ…いえ…。
私も晴明達を見送りに…。」
「そうか。
晴明、珱姫、気をつけて行くのだぞ?」
「はい。
ありがとうございます。
珱姫、行こうか。」
「はい。
皆様、行って参ります。」
こうして、晴明達は吉備に旅立った。
それを察知したのは、街に放たれている、珱姫の式神だった。
式神は、すぐに珱姫に伝えに行った。
「博雅様が、大慌てで、こちらに向かっております。」
「博雅様が?
何の用かしら…。
また、さつきのことかしら?」
「そこまでは分かりません。
申し訳ございません。」
「謝ることじゃないわ。
すぐに、晴明様にもお伝えして。」
「かしこまりました。」
式神は、晴明にも伝えた。
「大慌て…?」
「はい。」
「何やろ…。
すぐに、出迎えてくる?」
「かしこまりました。」
式神は、すぐに、門の所で待った。
「博雅様、本日は、何の御用でしょうか?」
「お…おお…!!
珱姫は…っ?!」
「珱姫様なら、晴明様といらっしゃいます。
ご案内いたしますね。」
「お…おお…っ!
頼む…っっ!!」
博雅は、すぐに、晴明達のとこに案内してもらった。
「晴明様、珱姫様、博雅様です。」
「ありがとう。
じゃあ、お酒とツマミを…。」
「いいっっ!
そんな時間ないのだ!」
「どうしはったん?
そんなに急ぎの話しなん?」
「そう!」
「なんや?」
「右大臣が、もうすぐ来る。」
「それが?」
「珱姫を宴に招待すると…!!」
「なんやって?!」
「わたくしをですか?!」
「そうだ。
この間、しずか殿のとこに行っただろ?」
「はい。
帝の命で…。」
「その時に、見初めたらしい!」
「見初めた。って珱姫は、僕の妻やで?!」
「右大臣には、それが効かない。
正妻も他の旦那がいたが、娶ったのだ。」
「そんな…。
嫌です!
わたくしは、晴明様の妻です。
晴明様以外の殿方なんて考えられません!」
「珱姫…。」
「しかし、右大臣はしつこいぞ?」
「それなら、僕も宴に…。」
「晴明も宴に呼ばれている。
でも、それは珱姫を引き出す為。」
「わたくし、はっきり申し上げます。
晴明様の妻だと。」
「それで通じれば良いが…。」
「帝はなんて?」
「帝は、珱姫は晴明のものだから、手には入らん!と…。」
「そうか。
分かった。僕ら宴に参加するわ。」
「いいのか?
晴明。」
「逃げても仕方ないやろ。」
「そうだな。」
「珱姫は絶対渡せへん!」
「わたくしも、晴明様以外の方は考えられません!」
こうして、右大臣の宴に参加することになった、珱姫と晴明。
博雅によれば、宴は今夜とのこと。
夜になり、宴の時間が近づいてきた。
右大臣から珱姫には牛車。
晴明には、籠が準備された。
2人はそれぞれに乗り、右大臣のもとに…。
右大臣は、珱姫を見ようと、牛車を待っていた。
牛車が来ると、恭しく出迎えた。
「珱姫。
ようこそ参られた。
さぁ、こちらへ。」
「右大臣様、今宵はお招き頂き、ありがとうございます。」
「なんと、美しい…。
お手を…。」
「大丈夫にございます。
晴明様が…。」
「そうです。
僕の妻ですから、右大臣様の手を借りるなんて、恐れ多いこと。」
「晴明様。」
「珱姫、手を。」
「はい。」
珱姫は、晴明に手を差し出した。
「宴の会場は、こちらだ。」
珱姫に手を避けられた右大臣はご立腹。
「晴明様、参りましょう。」
「そやな。」
夫婦揃って、右大臣の宴に参加した、晴明達。
珱姫の姿を見た者は、口々に美しい…。と言い、見惚れていた。
「珱姫とやら、あたくしの前に参られよ。」
そう言ったのは、右大臣の正妻。
珱姫は、正妻の前に行った。
「これは、右大臣様の御正妻、まつこ様。
今宵は、お招き頂き、ありがとうございます。」
「そなた、晴明の妻と聞く。
誠か?」
「はい。
わたくしは、晴明様の妻にございます。
わたくしの夫は、晴明様以外に務まる方はございません。」
「そうか。
なら、安心した。
もし、右大臣に輿入れを言われても、揺るぐことはないな?」
「はい。
ございません。」
「良い良い。
今宵の宴を楽しんでおくれ。」
「はい。」
珱姫は晴明の隣に戻り、晴明にお酌した。
「珱姫もいただきなさい。」
「はい。」
珱姫は晴明と、食事をし始めた。
その時、珱姫の背後から、正妻の娘のみつこが声をかけてきた。
「珱姫様。
わたしは、正妻まつこの娘、みつこです。
父が、貴女の踊りを拝見したいとのこと。
踊ってはいただけませんか?」
「踊りですか?」
「そうです。」
「分かりました。」
「珱姫、踊れたん?」
「はい。
踊れますよ。
ちょっと、踊って来ます。」
そう言って、珱姫は立ち上がった。
「珱姫。
さぁ、こちらへ。」
右大臣は、恭しく珱姫の手を取ろうとした。
「右大臣様。
大丈夫です。
晴明様、ご覧になってくださいね。」
「う…うん…。」
珱姫は、太鼓と笛の音に合わせて、踊り始めた。
その姿は、天女が踊っているかのように、美しかった。
誰もが見惚れている中、晴明は不安そうに見ていた。
踊り終えると、拍手喝采を受けた珱姫。
「晴明様。」
珱姫は晴明を呼んだ。
そして、席まで案内してもらい、右大臣の目論見は敗れた。
「いやぁ、晴明の奥様は、踊りも踊れるとは…。
凄いですな。」
右大臣に招かれた、招待客が話しかけてきた。
晴明は照れた。
「奥様は才色兼備ですな。」
珱姫は照れた。
そこに現れたのは、右大臣。
珱姫に文句を言おうとすると、まつこが止めた。
「右大臣。
あたくしの機嫌を損ねる気ですか?
あたくしは、珱姫の踊り、とても、素晴らしかったと思います。
何の叱責が必要でしょう?
あたくしは、必要ないと思いますが?」
右大臣は正妻の元に帰った。
正妻のお陰で、宴は何事もなく終わった。
帰る時、正妻が、晴明達に牛車を準備してくれた。
2人は、それに乗って帰って行った。
次の日の午後、みつこが晴明の屋敷に来た。
それも、沢山の荷物と共に…。
珱姫の式神が、中庭に通した。
「珱姫。
出て来られよ。」
珱姫は中庭に出た。
あまりの荷物に珱姫は驚いた。
「これは…どうされたのですか…?」
「これらは、父から珱姫宛の贈り物です。
珱姫、受け取っていただけますよね?」
「申し訳ございませんが、お受け取り出来ません。
わたくしの必要なものは、晴明様が購入してくださいます。
なので、必要ないのです。」
「これだけの物を要らぬと?!
父がどんなに悩みながら、購入したのかも分からないのに?
それは、失礼じゃありませんか?」
「お悩みながら、購入してくださったことは、ありがたく思っております。」
「でしたら、お受け取りください。」
「お受け取りはできません。
晴明様の妻でありながら、他の男性からの贈り物を頂くのは、晴明様に申し訳なくなります。
右大臣様のこと。
晴明様が買えぬ様な代物ばかりでしょう…。
それを見た時の晴明様のお気持ちを考えると、頂く事は出来ません。」
珱姫とみつこの話しを聞いて、晴明が口を挟んだ。
「珱姫。
折角だから、頂きなさい。
僕は大丈夫やから。」
「晴明様…。
分かりました。
お受け取りいたします。」
「ふん!
初めから受け取れば良いものを…。
では、贈り物を運び入れます。」
みつこは、家来に言い、贈り物を全て部屋に入れた。
「こんなにあるんですか?」
「まだよ。」
贈り物は、部屋いっぱいにあった。
「こんなに…。
右大臣様にお礼を申し伝えください。」
「分かりました。
では、失礼します。」
みつこは、帰って行った。
晴明と珱姫は、あまりの多さに唖然としていた。
「これ、全部、わたくしの物なのでしょうか…?」
「多分…。」
「やはり、お断りした方が…。」
「いや、受け取らへんかったら、それこそ拒否されたとして、何されるか分からへん。
右大臣は、自分のものににしたい女性には、まず、贈り物を送りつけると聞いたことあったけど、ここまでとは思わへんかった。
とりあえず、1個ずつ開けていこうか…。」
「そうですね…。」
珱姫達は、式神にも手伝わせ、1個ずつ開けていった。
贈り物は、着物、反物から始まり、髪飾りや宝石、草履にまで、多岐にわたり送られてきた。
「これは…凄いですね…。
こんなに送られてくるなんて…。」
「僕もびっくりや…。
今度、お礼に行かな…。」
「そうですね…。
2人で行きましょう。」
「そうやな。」
次の日、早速お礼を言いに、右大臣のとこを、訪れた2人。
女中が右大臣に珱姫が、向かっていることを伝えると、右大臣は大喜び。
「着いたら、早急に私の前に通しなさい。」
「はい。」
そこに、珱姫達が到着した。
珱姫達は、すぐに右大臣の前に通された。
「珱姫だけが来たのではなかったのか…。」
「珱姫は僕の妻ですから、一緒にお礼に伺いました。
いけなかったですか?」
「いや…。」
「右大臣様、昨日は沢山の贈り物を、ありがとうございました。」
「良い良い。
気に入ってくれたか?」
「はい。」
「それは良かった。」
「本日は、お礼を言いに来させて頂きましたので、これで失礼致します。」
早急に帰ろうとする珱姫を、右大臣は止めた。
「まぁ良いではないか。
まだ、ここに居なさい。」
「申し出はありがたいのですが、これから、晴明様と行かなければいけないとこがありますので…。」
「そんなの後で、良いではないか。」
「いいえ。
今日中との事ですので…。
失礼いたします。」
「仕方ない…。
珱姫達の牛車を呼びなさい。」
女中は、すぐに呼んだ。
「右大臣様、ご到着いたしました。」
「うむ。」
珱姫達は、右大臣に一礼して牛車に乗って帰った。
屋敷に着いた時、晴明が珱姫に声をかけた。
「行かないといけないとこ。って、どこのことや?」
「勿論、そんなとこありません。
ああでも言わないと、帰してくれなさそうでしたので…。」
「嘘やったん?」
「はい。
でも、このまま、吉備のお屋敷に行っても、良かったのですが…。」
「吉備の屋敷?」
「はい。
天体観測にぴったりの場所ですし。」
「そうやな…。
最近、行ってなかったし…。
行こうか。」
「では、準備しますね。」
珱姫は式神を10体だし、準備をさせた。
そこに、博雅が来た。
「晴明。
今日は、賑やかだな。
何があった?」
「これから、しばらく吉備の屋敷に行くことにしたんや。」
「こんな急に?!
帝の許可は?」
「今、わたくしの式神が聞きに行ってます。」
「どうして、吉備になんか…。」
「あそこは、天体観測にいいんや。
綺麗に見えるし、邪魔するものもない。」
「しかし…。」
そこに、珱姫の式神が帰って来た。
「どうだった?」
「はい。
帝の許可はお取りしました。」
「そう。
良かったわ。」
「右大臣様に目をつけられた事を、お話ししましたところ、早急に行くが良い。と申されていました。」
「そう。
ありがとう。
晴明様にも伝えて。」
「かしこまりました。」
式神は、晴明にも帝の言葉を伝えた。
博雅は、何とかここに残ってもらおうとしたが、2人の意志は強く無駄だった。
準備が終わった頃、右大臣が晴明の屋敷に来た。
「帝から聞いた。
そちら、吉備にしばらく居る。と…。
これは、どういうことだ?
許されるはずないだろ。」
「大丈夫です。
帝からは許可が降りてますので。
僕ら陰陽師は、天体観測も必要なのです。
今回は、しばらく天体観測に行って来ます。」
「しばらくとは?
どのくらいだ?」
「そうですね…。
2ヶ月は吉備に行こうと思うてます。
夫婦の時間も、ゆったりと取りたいですから。」
「2ヶ月だと?!
帝が許しても、私が許さん!
都を守る陰陽師が、そんなに長く都を離れるなど、あってはならんことだ!」
「帝の許可はもらっているので、僕らの気持ちは変わりません。
そこ、危ないですよ?」
「わぁっ!
こ…こんなにっ!
荷物が多すぎるのではないのか?
運びきれんだろう。
諦めぬか?」
「大丈夫です。
わたくしの式神が、手伝ってくれますので。」
「し…しかし…。」
「晴明様、お荷物作れました?」
「僕は大丈夫やで。
珱姫は?」
「大丈夫です。」
「晴明!!
私は、行かさぬぞ?
右大臣として命令する!」
「右大臣より位の高い帝が許してるんで。」
「晴明!!
ここ屋敷はどうする?
2ヶ月も空いていたら、汚れるぞ?」
「大丈夫です。
わたくしの式神を。ここにも置いていくので、式神が掃除してくれます。」
「珱姫。
そんなに、式神を出して平気なのか?」
「はい。
大丈夫です。
晴明様、そろそろ…。」
「そうやな。
博雅、僕らが居らんでも、ここに来て酒飲んでええから。」
「晴明…。」
「じゃあ、行ってきます。」
2人が行こうとするのを、右大臣は最後の足掻きを見せた。
「良いか?
このまま行けば、お前達の位を下げるぞ?
良いのか?」
そこに、帝が来た。
「見送りに間に合った!
晴明、珱姫、ゆっくりしてくるが良い。
ん?
右大臣、ここで何をしている?」
「あ…いえ…。
私も晴明達を見送りに…。」
「そうか。
晴明、珱姫、気をつけて行くのだぞ?」
「はい。
ありがとうございます。
珱姫、行こうか。」
「はい。
皆様、行って参ります。」
こうして、晴明達は吉備に旅立った。



