あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される

「え?」

 琴禰には何の物音も聞こえなかった。

 扶久が部屋から出ると、入れ替わるように煉魁が入ってきた。

「琴禰! 遅くなってすまない」

 煉魁はとても急いで来たようで、息が少し上がっていた。

「い、いえ」

「おお、着替えたのだな。よく似合っている。飯は? もう食べたか?」

「はい、いただきました。あやかしの国の料理はとても美味しいです」

「そうか、口に合って良かった」

 煉魁は琴禰の前にどかっと座って胡坐をかき、にこにこと嬉しそうな顔で琴禰を見ている。

「体は? もう大丈夫なのか?」

「まだ力は出てきませんが、動けるようにはなりましたので日常生活に不便はないです」

「そうか、無理はするなよ」

 煉魁はとても優しい。心の底から琴禰を案じてくれているのが伝わってくる。

「琴禰の目が覚めた時、側にいたかったのだが、あいつらが公務を放棄するなだのなんだのうるさいから……」

 ぶつぶつと文句を言い始めた煉魁を見ると、『文句たらたらで出て行った』と言っていた扶久の言葉を思い出して笑みが零れた。