あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される

(仕方ないわ。排除されないだけ親切だと思わないと)

 ようやく湯殿に辿り着いた。体を洗うと言ってきかない扶久をなんとか説得して、一人で大きな樽桶に入る。

 湯加減はちょうど良く、芯から暖まっていった。

(次に煉魁様に会えるのはいつだろうか)

 なんといってもあやかし王なのである。忙しいだろうし、琴禰に構っている暇があるとは思えない。

 でも、何も分からないあやかしの国で、一人では心細かった。

 いつかは対峙しないといけない相手なのに、頼れるのは煉魁だけだ。

(会いたいな……)

 湯に浸かりながら、煉魁のことばかりを考える。煉魁のことを思い出すと、温かい気持ちになる。

 自分はここにいていい存在なのだと、無条件で包み込んでくれる優しさがある。

(あの方が厄災だなんて、信じられないわ)

 祓魔で聞いていた話と、現実のあやかしがあまりにも違って困惑してしまう。

 けれど、血の契約を交わしてしまった。

(私に、選択権はない)

 気がどっと重くなるのだった。