あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される

「それで、わたくしは何をしたら良いのでしょうか?」

「ああ、すみません! ええと、では、湯殿に連れて行ってもらえますか?」

「承知致しました」

 お世話になってもいいものなのか戸惑っていたが、ここでお世話になるしか今は行くところがないので仕方ない。

 なるべく迷惑を掛けないよう過ごしたいが、お世話をすることが扶久の仕事であるならば、ちゃんと世話になった方が仕え人にとっては気楽なのだ。

 琴禰もそうだったので、気持ちはよく分かる。

 先ほど部屋から出ようとした時に指先に感じた結界のようなものは、琴禰が起きたことを扶久が分かるようにするための合図だという。

 外に出てはいけないわけではないので、扶久の後ろに付いて歩く。たくさんの襖を通り過ぎ、長い渡殿を通る。

 その間に、あやかしの人々に何人か出会った。

 人間のように見えるけれど、鼻が獣のように尖っていたり、瞳孔が蛇のように縦長だったりと変わっている。

 琴禰も驚いたが、あやかしの人達も琴禰を見ると怯えていた。逃げるように遠巻きにされたり、コソコソと琴禰に聞こえないように話をされたり、あまりいい気分にはなれなかった。