○学校・2年2組の教室・朝礼前
(※第2話の続き)


茉白「ねぇ、陽彩。璃青くんって、いつもあんな無愛想なの?」

陽彩の席で話す茉白。


女子『あの、璃青くん。良かったら、これ……食べてください』

璃青『いらない』

自分に寄ってくるファンの女子を、冷たくあしらう璃青の回想シーン。


陽彩「うん。学校では、いつもあんな感じかな」

茉白「あの人、璃青くんにそっくりな双子の弟とかじゃなくて!?」

陽彩「双子の弟って……茉白、何を言ってるの? 面白いね」


茉白を見て、けらけら笑う陽彩。


茉白(し、しまった。私ったら、余計なことを……! 璃青くんが双子なわけないのに)


茉白「いっ、いや……昨日陽彩に見せてもらったスマホの写真とは、また随分と印象が違うなと思って」

陽彩「それは、確かにそうだよね。璃青くんには、女嫌いだって噂もあるのよ」


茉白(女嫌い……璃青くんが?)
(今朝、彼は私にとても近い距離でネクタイを結んでくれたりしていたけど……本当に?)

眉をひそめる茉白。


茉白(それが本当なら……もしかして私、璃青くんに女として見られていないのかな?)


陽彩「ああ……雑誌だと璃青くん、こんなにも笑顔が素敵なのに〜」


机の上に璃青の載った雑誌を広げ、ウットリする陽彩。※誌面には、白い歯を見せ満面の笑みを浮かべる璃青の顔のアップ。


陽彩「まあ、あたしは無愛想でクールな璃青くんも好きだけどね。ふふ、璃青くん愛してる〜♡」

茉白「はは」


雑誌の璃青の唇に向かってキスしようとする陽彩を見て、茉白は若干苦笑い。


陽彩「ねぇ。茉白も見てよ、璃青くん!」


そう言って、茉白に雑誌を見せる陽彩。


そこには、璃青へのインタビューが掲載されており、興味を持った茉白は読むことに。


《インタビュー記事》

【Q 好きな色は? A. 白です。

Q 初恋は? A. 6歳のときですね。

Q 女性の好きな髪型は? A. ツインテール。

Q ズバリ、好きな女性のタイプは? A. 優しい人が好きです。あ、でも……やっぱり自分の好きになった人がタイプかな。】


璃青のインタビューのページを読んだ茉白は、ドキリとする。


茉白(好きな色が白、初恋は6歳のときって……まるで私のことを言われてるんじゃないかって、一瞬思ってしまった)

茉白(私、幼稚園から小学校低学年の頃までは、いつも髪をふたつに結んでいたから……って、自意識過剰すぎる!)


陽彩「そういえば、さっきから気になってたんだけど。茉白の香水って、璃青くんがつけてたのと同じじゃない?」

茉白「え?」


陽彩が茉白のほうに、鼻を近づける。


陽彩「さっき璃青くんが、外を歩いていたときにした匂い……やっぱり、このすずらんの香りと一緒だ」


茉白(ぎくっ!)肩が、これでもかと大きく跳ねる。


陽彩「今日の璃青くん、いつもつけてる香水と匂いが違ったからさ」


茉白(す、すごい。あの短時間でそんなことまで分かっちゃうなんて……さすが、熱心な璃青くんファン!)


茉白「こ、これは、帰国する前にアメリカのショップで買ったものだから。多分、香りが似ているだけだと思うよ?」

内心ヒヤヒヤしながら否定する茉白の顔は、引きつっている。


陽彩「そっか。そうだよね」

茉白「うん、きっとそうだよ」

茉白(……これから学校では、璃青くんとお揃いの香水をつけるのはやめたほうがいいかな)



○同日の夜。相沢家のダイニング


茉白は璃青と紫と3人で、夕食をとっている。


璃青「そういえば、しーちゃん。髪、昔みたいに結んだりはしないの?」

茉白「えっ?」

璃青「ほら。しーちゃん小さい頃は、いつもツインテールにしてたじゃない」

茉白(ツインテール……)


《Q 女性の好きな髪型は? A. ツインテール。》

茉白の脳裏に、今朝学校で読んだ璃青の雑誌のインタビュー記事が過ぎり、頬がわずかに赤らむ。


璃青「あのときの髪を結んでたしーちゃん、すごく可愛かったから。久しぶりに、また見たいなって思って。良かったら、リクエストしてもいい?」

茉白「リクエスト……」

璃青「あっ。もちろん、今のストレートヘアのしーちゃんも素敵だけどね」

茉白「り、璃青くん……」
璃青のストレートな言葉に、照れて俯く。

璃青「だけど……もしも、しーちゃんが嫌とかなら、髪は無理に結んでくれなくて大丈夫だから」


このときの璃青の言葉が、茉白の耳にやけに残った。



○翌朝。相沢家・洗面所


茉白(ツインテール……かぁ)


ぼーっと鏡を見ながらヘアブラシで髪の毛を整えていた茉白は、昨夜の璃青との会話を思い出す。


璃青『髪を結んだしーちゃん、すごく可愛かったから。また見たいなって思って』


茉白(もしツインテールにしたら……璃青くん、私が香水をプレゼントしたときみたいに喜んでくれるかな?)


今日は日直だからと、璃青はいつもよりも早くに家を出たため今は不在。


茉白(よし。気分転換も兼ねて、今日は髪を結んで行こうかな)

そう思うと茉白は、ヘアゴムを手に取った。



○高校までの通学路(朝)


茉白は、耳のところで髪をふたつに結んで登校する。


茉白(璃青くん、この髪型を見たらなんて言ってくれるかな?)


璃青『えっ、しーちゃん。ツインテールにしてくれたの? めちゃめちゃ可愛いじゃん』

璃青『しーちゃん、似合ってるよ』


キラキラの笑顔で自分を褒めてくれる璃青を妄想して茉白はニマニマし、目と眉はハの字にたれさがる。

ふふっと声に出して笑い、その後何かに気づいたようにハッと我に返る。


茉白(そうだ。璃青くんと私は、同じクラスじゃないし)

茉白(そもそも芸能科のあるエリアは、立ち入り禁止だから。学校で彼に会う機会なんて、なかなかないんじゃ……ああ、残念……。)


ガクッと、肩を落とす茉白。



○学校の体育館・5限目の体育の授業中。


茉白(どうしよう。まさか、こんなことがあるなんて……)


体育の授業は2クラス合同で行われるため、茉白の2組は1組の芸能クラスと一緒。


陽彩「茉白、うちら2組でほんと良かったよね」

茉白「うん」

陽彩「まさか、授業中の璃青くんを見られる日が来るなんて……ああ、感無量だわ」「神様、ありがとうございます」※天に向かって、嬉し泣きしながら手を合わせる。


今日の授業はバスケで、男子と女子がそれぞれ別のコートに分かれて試合の真っ最中。

男子側のコートでは、現在璃青が試合に出ている。


そして今休憩中の茉白は陽彩とともに、体育館の端っこに体育座りをして、璃青たちの試合を見ている。


陽彩「きゃああああ。璃青くん頑張ってええ」

璃青の名前入りのカラフルな黒うちわを手に、興奮気味に応援する陽彩。

茉白(アイドルのライブとかじゃないのに。陽彩ったら、いつの間にあんな団扇なんて用意したの?)


男子1「相沢!」

コートではチームメイトからボールを受け取った璃青がドリブルをし、綺麗なフォームでシュートを放つ。

ボールは美しい弧を描いて、ゴールへと吸い込まれていった。


ピピーッ!

それと同時にホイッスルが鳴り、試合が終了。璃青のチームが勝利し、璃青は笑顔でチームメイトの男子とハイタッチする。


そんな璃青を見て、彼のファンの女子たちはキャーキャー。茉白の視線も、無意識に璃青へと一直線。


茉白(やばい。璃青くん、すごくかっこいい)


茉白が璃青を見ていると、璃青が自分の着ているシャツで顔の汗を拭い、程よく筋肉のついた上半身がチラリと見えてドキドキ。


茉白(あのカラダ……璃青くんってば、本当に男の子なんだ……)


すると、璃青が偶然茉白のほうを向き、目が合った彼女はドキリとする。


璃青はそのまましばらく茉白のことをじっと見つめ、少しして彼の口がパクパクと動いた。


璃青『か わ い い』


ふわっと優しく微笑んだ璃青が、両手を握り拳にして自分の耳元へと持っていく。


茉白(あの仕草……もしかして璃青くん、私のツインテールに気づいてくれた?)


陽彩「キャーッ! 璃青くんが笑ったんだけど。しかも、何あれ。猫のポーズ!? かわいい〜っ!」


茉白(ね、猫!?)(た、確かに、そう見えなくもないかも?)
※猫耳としっぽをつけ、ニャーッと鳴く璃青のデフォルメ絵。


隣で拳を握り、先ほどの璃青と同じ仕草をする陽彩を見て茉白はクスリと笑う。


茉白(今日、ツインテールにして良かったな)


歩いていく璃青の後ろ姿を見つめながら、茉白は微笑む。


そんな茉白と璃青の様子を、離れたところからじっと見ている黒髪短髪の男子生徒が一人。


男子「あの二人……今見つめ合ってた?」



○相沢家のリビング(夜)


夕食後。茉白はリビングのソファに座り、スマホで配信の映画を観ていた。

去年モデルの璃青が俳優として初めて出演した映画で、今日学校で陽彩に観るように勧められたのだった。


映画は高校生の純愛物語で、璃青はヒロインの幼なじみで恋の相手役。

劇中で璃青がサッカーをしたり、ヒロインのことをお姫様抱っこする絵。


璃青セリフ『好きだよ、那奈(なな)(ヒロインの名前)』『俺は、お前のことがずっと好きだった』

そして物語はクライマックスを迎え、璃青が花火大会でヒロインに告白し、両想いとなった二人は花火が打ち上がるなかでキスをする。


茉白「わぁー、やっばい」


映画を観ながら、茉白は終始キュンキュンしっぱなし。


茉白(いいなぁ。こういうの、めちゃめちゃ憧れる)


『好きだよ、茉白』


ヒロインの奈那を自分に置き換え、茉白が妄想に浸ってキャーキャー言っていると、お風呂から出た璃青がリビングへとやって来た。


璃青「あれ。しーちゃん、何観てるの?」


お風呂上がりの璃青はスウェット姿で、首からさげたタオルで濡れた髪を拭いている。


茉白「り、璃青くん!?」


映画に出演している本人がいきなり登場し、茉白は目を見開く。


茉白の隣に腰をおろした璃青が、彼女のスマホを覗き込む。
急に近づいた彼の髪からシャンプーの香りがして、茉白は心臓がドキリと跳ねる。


茉白(ま、まさか。映画の中の人が今、自分の隣に座っているなんて夢みたい……!)


璃青「ていうか、それ……俺が去年出てた映画だよね?」

茉白「う、うん。同じクラスの璃青くんファンの友達に勧められて観てたの」

璃青「そうなんだ。しーちゃんに観てもらえるのは嬉しいけど……ちょっと恥ずかしいな」※頬を少し赤らめながら。

茉白「でも、璃青くん。初めての映画とは思えないほど、演技すごく上手だよね」

璃青「ほんと?」パッと顔が明るくなる

茉白「うん。とても自然で、私も璃青くんの彼女になりたいって思いながら観てたよ」

璃青「だったら……」


璃青が茉白の顎を指で持ち上げ、妖艶に微笑む。


璃青「しーちゃんも、あのドラマみたいに俺の彼女になる?」