シュガーコート



 振り返らずに教室を後にする。「千花」と聞こえる声にわたしは耳を塞いだ。

(言わなきゃ、佐藤くんに。わたしは佐藤くんのことが好きなんだって)

 日直日誌を提出することも忘れて、わたしは早足で校舎を歩く。

 佐藤くんの声が聞きたい。早く帰って電話をしたい。確信した気持ちが溢れかえりそうになる。

 ピカッとまた稲光が空に走り、わたしは窓の外を見た。雨はやや落ち着いてはきているが、まだ止む気配はない。

 すると、視界の端にこの雨の中傘を持たずに外を歩く生徒の姿が映った。

(えっ……うそ、あれってひなた!?)

 その後ろ姿を間違えるはずがなかった。

 今朝持っていたはずの傘をささずに、ひなたは制服姿のままふらふらと歩いていく。

(どうしてあんなにびしょ濡れになって……!)

 わたしは慌てて階段をかけ降りる。

 途中で運良く担任の先生に会えたので日誌を手渡すことに成功した。