「えっと、バスケ部の……藤井くん?」
「はは。なんだよ他人行儀に」
3組の藤井くん――亜矢が陰で推している人だ。藤井くんはスッと目を細めて微笑み、後ろ手でドアを閉めた。
(いまこの人、千花って呼んだ? なんで呼び捨て?)
記憶を辿っても呼び捨てにされるようなやりとりはなかったはずだ。誰かにわたしの名前だけ聞いたのだろうか。それとも元々誰でも名前で呼ぶ派なのか。
空にまた稲妻が走る。藤井くんは窓の外をちらりと見てからわたしに視線を戻した。
「こんな日に日直だなんてついてないな」
「え、ああ。うん、でももう帰るところで……」
(きっと、こんな天気の中で自分以外に居残り組がいたから、気になって声をかけてきただけだよね)
とにかく日誌を終わらせようと目線を落とすと、視界にスッと影がかかった。


