「失恋したのに――――告白されて?――つき合って――のに――――――手を――――?」
「ひなた? 聞こえな……」
「なんで――――」
ひなたは傘の陰からまっすぐにわたしを見ていた。感情のなくなった人形みたいに、まんまるな目をわたしに向けていた。
肝心の言葉が聞こえなくて、でも聞き返すのが怖くて、わたしはその場に立ちつくした。
「……ううん。なんでもないよ。行こう、千花ちゃん。遅刻しちゃう」
「う、ん」
にこり。ひなたは笑ってみせるけれど、目が笑っていない。よほど怒らせてしまったのだろうか。
(わたし、謝ったよね……。一体なにがひなたの地雷だったんだろう)
ひなたは黙って足を進める。わたしは呆然としながら青い傘から覗いたひなたの表情を思い出していた。
土砂降りから逃げるようにひなたとわたしは昇降口に駆けこんだ。傘をさしていても横なぐりの雨のせいで制服がしっとりと濡れてしまっている。
他の生徒たちも同じように足早に屋根の下へと走ってきた。


