「紗奈…紗奈………フローチャートが襲ってくるよ…、フローチャート…」
「フローチャートは襲ってきません」
競技大会当日。
情報研究部は大会の会場となる高校に来ていた。
「白石も、他のみんなも聞いて欲しいけど。もうここまで来たら、どうしよう…って思い悩まなくていいから。楽しんで来てくれ。特に3年生、最後の大会だから」
峯本先生の言葉に、部員全員が頷く。
言い訳みたいになるけれど。
私は生徒会の活動もあり、思うように勉強が出来なかった。
フローチャートが襲ってくるくらい勉強を頑張った香織。
大丈夫。
根拠は無いけれど、個人個人で…できることは…やった、はず。
数時間後。
大会は無事に終了した。
禎原商業高校は、簿記部が地方大会進出となった。
情報研究部は…………残念。
「…お前ら、落ち込むなよ。大丈夫、頑張ったから」
…私が生徒会に巻き込んだから…。
誰1人地方大会に進出できなかったということは、100%私のせいだ。
「皆さん、ごめんなさい。私のせいで…申し訳ありません」
部員たちに向かって、深く…深く頭を下げた。
そんな私の元に、みんなが駆け寄ってくる。
「紗奈のせいじゃないし!!! 何謝ってんのよ!!!」
「渡里ちゃん!! 大会が全てじゃないよ!! 私ね、高校最後の文化祭にあれだけ関わらせて貰えたこと、本当に嬉しかったの。渡里ちゃんと同じ部で良かったって、心の底から思ったんだから!!!」
星乃部長は泣きながら私を抱きしめた。
それを見た澤村副部長も、香織も、1年生も…みんながくっついた。
優しい仲間たち。
本当に、感謝してもしきれないよ。
「君ら………最高だな…」
青春漫画のような台詞を零した峯本先生。
その一言が何だかおかしくて、今度はみんなで大爆笑をした。
「プログラミングから解放されたね」
「それよ! 嬉しすぎ」
帰り道、香織と星乃先輩と澤村副部長の4人で歩いていた。
「ねぇ、渡里ちゃん。もうすぐ生徒会役員選挙じゃない。どうするの?」
「………」
役員選挙。
例年通りなら、生徒会を経験した2年生はみんな会長か副会長に立候補する。
しかし今年度は…私以外は何もしていないからね。
仮に私が会長に立候補したとして…副会長は、誰になる?
仕事を放棄した2人のどちらかが立候補して当選したら…それほど最悪なことはない。
「渡里ちゃんに白石ちゃん。私ね、2人で立候補したら良いと思っているの。会長が渡里ちゃん。副会長が白石ちゃん」
星乃部長は真顔でそう言った。
「……え!?」
本気で驚いた声を上げたのは…香織だった。
そりゃそうだ。
香織は生徒会経験者ではない。
「ぶ、部長。何で私ですか?」
「渡里ちゃんと一緒に過ごして、生徒会のこともある程度は分かるわけだし。今回生徒会メンバーだった2人よりは、白石ちゃんの方が絶対良いと思う」
そんな星乃部長の言葉に澤村副部長も頷いた。
「星乃と話していたんだ。2人が立候補したら、私たちが応援責任者をする。色んな人に売り込みもするよ」
2人の先輩の目は本気だった。
こんなにも信頼してくれているなんて。
これほど光栄なことは無い。
「…私が、生徒会……」
香織の目は不安そうに揺れていたけれど。
意を決したかのように、段々と目に力が加わってきた。
「……部長、副部長…そして、紗奈。………私、前向きに考えます。紗奈となら、頑張れるかも」
香織は力強く頷く。
そんな様子を見た先輩2人も、嬉しそうに何度も何度も頷いていた。