高校三年生ーーーそれは、卒業後の進路を決める大切な時期だ。

「お前、まだ進路希望調査表出さないつもりか?」

放課後の職員室にて、私ーーー恋塚胡桃(こいづかくるみ)は担任の先生に呼び出されていた。先生は呆れたように「みんなもう提出したぞ」とため息を吐き、私は自身の長めの髪をいじりながら伏し目がちに言う。

「だって、自分が何をしたいのかわからなくて……」

私がそう答えると先生はもう一度ため息を吐く。呆れているのが丸わかりだ。

「将来どんな仕事をしたいとかないのか?行きたい大学や専門学校は?」

「好きなものはそれなりにあるけど、仕事にしたいとは思えなくて。だから行きたい大学も就きたい仕事も特にないです」

頭の中に好きなものを一つずつ思い浮かべる。まずは音楽。歌うのも好きだし楽器も好き。中学では吹奏楽部に入ってた。でも歌手になりたいとか、吹奏楽で担当していたトランペット奏者になりたいとか、そんなことは一度も考えたことがない。