❀


「玲奈、進級できてよかったな」


 修了式が終わって、あとはもう帰るだけというタイミングで、友哉は意地の悪い顔をして言ってきた。


「……うるさいな」


 そんな友哉に、言い返す気力なんてなかった。


「ん? なんだよ。まさか、実は留年だったとか?」
「違うから」


 ギリギリだけど、進級できるもん。


 私はただ、友哉とクラスが別れてしまうのが嫌なだけ。


 こんな嫌な会話をされても教室に留まろうとするくらい、この場所にしがみついている。


 でも、そんなこと素直に言えなくて。


 というか、寂しいと思ってるのは、私だけだろうし。


「じゃあよかったじゃん」


 現に、友哉はずっと明るい。


「そういや、新しくたい焼き屋ができたんだって。行く?」


 ……人の気も知らないで、能天気なんだから。


「あ、あの、相馬くん」


 すると、クラスメイトの女子が緊張気味に友哉を呼んだ。


 その後ろには、彼女を応援するかのように、二人の女子がいる。


 ……ああ、そういうこと。


「……私、先に帰るね」
「え、おい、玲奈」


 友哉の声なんか無視して、私は教室を出る。