「僕はいつも、怜士に負けてばかりだよ。

ピアノでも、運動でも、頭でも。

だから、恋では勝ちたかったんだけど、それも無理みたい」


そう言う川原さんも、泣いてしまいそうだった。

そんな川原さんにかける言葉が見つからない。

これはすごく自惚れで、もし間違っていたら恥ずかしくて消えたくなるが……川原さんは、私のことを好きになってくれたのだろうか。

この、庶民の私なんかを……



「川原さんは優しくて、気遣いが出来て、素敵な男性です。

だから川原さんには幸せになってもらいたいです」


言葉を振り絞る。

私が川原さんを好きになることが出来たら、幸せになれたのかもしれない。

だけど私はまだ、怜士さんから離れられないのだ。



川原さんの泣いてしまいそうな顔を見て、私は何をしているのだろうと心から思った……