それから私たちはお洒落なアクセサリーショップに寄ったり、楽器店や雑貨を巡ったり、様々な場所を回遊した。

「あの人、めっちゃかっこいいね」
「ねえ。隣のあの子、彼女なのかな」

時々、同じ年頃の女の子たちが、秋斗くんが通り過ぎた後にこっそり振り返っている。

「彼女……」

私は吹き抜けの手すりに触れながら、下階へ目を落とす。

秋斗くんは……春陽くんは、私のこと、どう思っているのかな……?

黙している秋斗くんが今、どう思っているのかが知りたくて堪らなかった。

やがて昼時になり、私たちは昼食を取るためにフードコートに立ち寄った。
互いにメニューを決め、空いている席に腰かける。

秋斗くんは、もう一人の春陽くんなんだよね。
でも、何故か、私のこと、まるで他人みたいに苗字で呼んでいるし。

携帯をいじっている秋斗くんは、春陽くんとは別人のような顔を見せてくる。
ランチを食べている今も、その姿に翻弄されているような気分だ。
険しい顔は真剣そのもので、春陽くんとのギャップに戸惑うばかり。

「見た見た? めっちゃかっこいい人がいる」
「うんうん。見てたよ。ちょー感動した」

それに周囲の女子たちが騒いでいるし、高校内外にファンの多そうな人だから、芸能人としゃべっているような感覚が抜けない。

「あたし、本気で狙おうかな」

今、私の目の前にいる秋斗くんのことだ。
彼女たちの目は、それこそ本気の眼差しだった。
そして、私に対して向けてくる視線が……非常に痛い。
めっちゃ嫌だ、このシチュエーション……。

「あれ……」

そう思っていた時、携帯が震えた。メールが来たみたいだ。
画面に映る送り主は『秋斗くん』。
私はおそるおそる携帯を手に取って、メールの内容に目を通した。

『雫、会話が全く盛り上がらなくてごめんな。あー、くそー。なんで俺は雫のこと、苗字でしかも『さん』付けで呼んでいるんだー。敬語で話すの、すげー面倒くさいんだよな。でも、秋斗の場合、雫とは初対面になるし。とにかく、本当にいろいろとごめんな』

春陽くんの謝罪のメール。
もしかして……秋斗くんにとっては初対面になるから、私のことを苗字で呼んでいるの……?