ぎゅっと桜に抱きつかれた。

複雑な心境にいながらも、心臓はバクバクだ。


桜と一緒に寝ると、驚くほど心地よく眠れる。母さんにそのことを知らせたら、とても喜んでいた。

あと1ヶ月ぐらいしたら、両親と会わせてもいいだろう。


……そして、一番大事なこと。


俺は蓮だ。ただし、雅でもある……。


中学生時代、命を狙われることがとても増えていた。


しょっちゅう誘拐されていたし。それで母親の提案により、四条雅と名前を偽って登校していた。


あの時はキラキラ御曹司などではなかった。


いつもと変わりなく、難なく難しい問題をひたすら解く日々。

飽き飽きして、刺激を求めていた。

けれどいわゆる隠キャに分類される僕は、友達も少なかった。


そんなある日、巡り会ったのが桜だ。


元々同じクラスだったけれど、特に面識はなかった。

だけど、たまたま同じ猫のハンカチを使っていたことをきっかけに、仲良くなったのだ。


『このハンカチ触り心地もいいし可愛いよね!』

『そ、そうだね』

『雅くんだったよね?仲良くしてくれると嬉しいな』


クラスの中でもずば抜けて人気だった桜に話しかけてもらうだなんて、不思議だった。

それ以前に……僕は過度の女嫌いだったため、近づかれると気分が悪くなる。なのに桜は平気だった。


これは運命だと思った。気遣ってくれて優しくて……しかも彼女の優しさは偽りなんかではない。心の底からのものだ。

それからどんどん僕は惹かれて行った。

きっと、桜も多少は僕のことが好きだったはず。