だけど……そんな惚気の笑みも、すぐに消えた。

また桜を傷つけられたら困ると思い、預かったスマートフォン。

連絡が来ていたのだ。


【桜、家にいないみたいだけど大丈夫か?】


男……?ああ、出雲秋か……。

学園内にいるいわゆる問題児。桜にだけ優しくしやがって……本当ムカつく。

苛立っていれば、今度は電話がかかってきた。


……これはとてもいいチャンスだ。

アイツにわからせてやろう、そう思ってスマホに手を伸ばした瞬間だった。


「た、ただいま……」

「……は?」


随分早いが風呂から上がってきたのだろうか、桜がそこにいた。

けれど、用意したはずの桜のネグリジェは使われていない……その代わりに、俺の黒色のパーカーを着ていたのだ。


「桜、ネグリジェ着なかったの?」

「えっ……そんなの、あったの……?」

「ああ、用意していたはずなんだが……」

「下着とかはあったけど服なくて……近藤さんも他のお仕事に行っちゃったから、ちょうどこのパーカーがあってどうしようもなくて着ちゃって……もしかして、だめだったかな?」


涙をうるうると目に溜め始める桜。

そんな格好でそんな表情したら、耐えられるものも耐えられなくなる……。


「そんなことないよ、ありがとう」

「う、うん、あ、あの蓮くん鼻血……!!」

「え?」

「大丈夫……!?てぃ、ティッシュ……!!」


僕のすぐそばにあるテーブルの上にあったティッシュを取ろうとしてくれたのか桜がこちらに向かって走ってくる。


けれど、カーペットで滑ってしまったのか転びそうになった桜。

危ない、と反射して抱き止める。そのまま座っていたソファに倒れ込み、2人とも怪我はなかったものの……。