結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました

「えっ、南係長」

まさか2階席に行くとは思わなかった。
階段を上る南係長のグレーのスーツの背中を追いかける。

「ここでいい?」
窓際の席の前で南係長が立ち止まる。窓の外は夜の海が見える。
港を行き交う船の灯りが宝石みたいに綺麗だった。

このお店から海が見えるとは思わなかった。

「はい」
返事をすると、南係長が光沢あるダークブラウンのテーブルの上にトレーを置く。

「どうぞ」
私の前に白いカップに入ったブレンドコーヒーを置いてくれた。

「ありがとうございます」
恐縮しながら受け取る。

「あっ、それでお金」
「今日は僕に奢らせて下さい」

こっちを見て南係長が微笑んだ。
銀行の外で会う南係長はやっぱり印象が違う。威圧感は全くなくて、優しそうな人に見える。

「でも、悪いですから」

ここのブレンドコーヒーはちょっと高いのだ。

「何も悪くないよ。僕に付き合ってもらっているんだから」

また穏やかに微笑まれて、これ以上何も言えなくなる。
いいのかなと思いながらお財布を仕舞うと、南係長が嬉しそうに頷いた。

「なんか、すみません。いただきます」

口にすると、芳ばしいコーヒーの香りが鼻に抜けた。少しフルーティーな香りも感じる。今日のブレンドは、中煎りのエチオピア産とコロンビア産のコーヒー豆を使っていると案内が出ていた。

「ここは、チェーン店の割にはいい豆を使っているから美味しいんです」

向かい側に座る南係長もコーヒーカップに口をつける。

「うん。今日のブレンドは当たりだ」

コーヒーカップを置くと南係長が私を見た。

「そうですね。当たりです」

ふふっと笑うと南係長が頷く。
怖いと思っていた人と和やかにコーヒーを飲んでいるのが何だか不思議。