結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました

食事の途中だったけど、私の分の食事代を置いて席を立った。

「先に失礼します」
「桜子、待ちなさい。藤堂さんに失礼だろ」

父に腕を掴まれたが、強く振り払った。私の感情よりも仕事相手を優先する父にがっかりする。四年ぶりに会ったのに、この人は私の事を利用したいだけなんだ。一秒でもこの場にいたくない。最悪な気分のままレストランを出た。今日は父と少しは親子らしい話が出来るかもと期待していた私がバカだった。

「桜子!」

父がレストランの外まで追いかけてくる。顔を合わせたくなくて、目の前のエレベーターに飛び乗った。タイミング良く扉が閉まりエレベーターが上昇する。父から逃げられた事にほっとした。

「何階ですか?」

涼し気な男性の声がした。
扉近くに長身のスーツ姿の男性が立っている。私は男性の左後ろの位置にいた。エレベーターの中は他には誰もいない。

「あっ、ええーと」

男性の行き先は最上階のスカイバーのよう。こうなったらバーで時間を潰して帰ろう。

「私も同じ所で降りるので大丈夫です。ありがとうございます」
「九条桜子さん?」

いきなりフルネームで呼ばれて驚いた。まさか知り合い?
こちらに顔を向けた鼻筋の通った端正な顔を見てハッとする。

「……北沢海人……准教授(先生)

大学で先生の心理学の講義を受けたし、ゼミも先生のゼミを取り卒論の指導をしてもらった。お世話になった先生だ。