結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました

「僕の顔を見るのも嫌になる程、大嫌いですか?」

こちらを向く、澄んだ黒い瞳を見た瞬間、胸が切なくなる。
先生の顔を見て大嫌いと言える訳ない。拷問だ。

「どうして泣くんですか?」
「泣いてません」

これ以上、意地の悪い質問をしないで欲しい。
もう、本当、ギリギリの所で涙を我慢しているんだから。

「泣いてますよ。今だけじゃない。その顔は昨夜、沢山、泣いたんでしょう?」

ズッと洟をすすると、先生の手が私の頬に触れる。
いじめないでよ。瞼の奥が熱くなるじゃない。

「泣いて……ません」

目の縁に溜まっていた涙の雫が私の意志に反してポロリと零れ出た。

「君は意地っ張りですね」

ポンポンと頭を撫でられた瞬間、さらに涙腺が緩んだ。
お願いだから優しくしないで。そう言いたいのに声にならない。

「僕の事が嫌いですか?」

もう一度聞かれて、ぐにゃっと目の前の先生の顔が歪んだ。
嫌いだって言えばいいのに、心が抵抗するから困る。

「わ、私は……」

辛うじて出た声が不格好な程、涙で震える。
それでも、言わなきゃいけない事がある。

「せ、先生に……ふ、相応しくない……」

情けない。お母さんに許しを請う泣きじゃくった子どもみたいな声になった。

「そんな事ないですよ。なんでそんな風に思うんですか?」

驚いたように先生が私を見る。

何でも持っている西園寺詩織さんの事が浮かび、胸が締め付けられる。
私には先生にあげられる物が何もない。

「だって……私には……何も……ない……から。先生を……不幸にしたく……ないから」

ボロボロな自分の涙声が嫌になる。26歳にもなって泣きじゃくりながら、先生にこんな事を言う事になるとは、なんの罰なのだろう。こんなみっともない告白したくなかった。

「そんな事ない。桜子と結婚できないと僕が不幸になります」

私を抱えたまま起き上がった先生が真っすぐにこっちを見た。
洟をすすり、「なぜ?」と聞くと、先生が瞳を細める。大切な人を見るような優しい表情だった。

「君に嘘をつきました。本当は好きな人と結婚したいんです」

心臓が大きく脈打った。それってまさか……。