結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました

病院の外に出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。
昼間は暖かさを感じるようになったけど、夜になるとまだ冷える。

コートのポケットに手を突っ込んで、タクシーで来た道を歩く。
昂る気持ちを静めるのに外気の冷たさが丁度いい。

あまりにも酷い夜だった。
まさか父と瑠璃さんが母が生きていた頃から不倫関係だったなんて……。

あんなに優しい母を裏切るなんて最低だ。
天国にいる母はきっと悲しんでいる。

私の家族は本当に自分勝手だ。自分の欲望の為に優しい人を傷つける。
九条建設なんか倒産すればいい。父も瑠璃さんも姫香も困ればいい。

こんな事を思う私も自分勝手だ。真面目に働いている社員の事を考えていない。
自分勝手だから先生に別れも切り出せない。このままだと先生を不幸にするとわかっているのに、お別れのメッセージの続きが打てない。

文字を打とうとすると、胸が張り裂けそうになる。西園寺詩織さんと先生が結婚する事を許せない自分がいる。なんて醜い気持ちなのだろう。自分にあきれる。

見上げた空には桜の木があった。
いつの間にか桜並木が続く櫻坂まで出ていた。

四月になると満開の桜が美しいと北沢不動産ベリが丘支店長の鈴木さんが話していたのを思い出した。
よく見ると枝には蕾のような物が沢山付いている。

この蕾が花を咲かせる頃、私はどうしているだろう?

フッと息をついた時、スマートフォンが鳴る。
着信は先生から。出ようか迷ったけど、母に出なさいと言われた気がして電話に出た。

これ以上、優しい人を振り回してはいけないんだ。