「りっちゃん、その話は今いいから。じゃあ、僕たち用事があるから行くよ」

先生が慌てたように言う。
もしかして先生、私の悪口を彼女に言ったんだろうか? 不愛想で可愛げのない学生がいる。そんな風に話していそうだ。

「海くん、もう行っちゃうの?」

寂しそうに花嫁さんが先生を見た。

「彼女と早く二人きりになりたいんだよ」

先生がまた私の肩を抱いた。甘いコロンの香りが胸をざわつかせる。意識してはいけない。しっかりしろ、私。私は絶対に蜜にむらがる蟻にはならない。

「彼女に夢中なのね。ごちそうさま」

うふっと花嫁さんが笑う。

「ゆりちゃんもこれで安心ね」
少しだけしんみりとした表情を花嫁さんが浮かべた。

ゆりちゃん? 誰?
説明を求めようと先生を見ると、目を逸らされた。

話したくないって事?

「九条さん、海くんの事をよろしくお願いいたします」

りっちゃんに頭を下げられ、私も慌ててお辞儀をした。

「じゃあ、りっちゃん、お幸せに」
先生が言った。

「海くんも九条さんとお幸せに。今日はありがとう」