「なんか……緊張しますね」

ベッドに座った彼女が、フワッと俺と同じシャンプーの匂いを香らせながらそう呟いた。

「寝室入ったの、初めてだっけ?」

そう聞くと、梓葉がコクンと遠慮がちに頷いた。

ヤバい。
正確には、もうずっとヤバい。

この日のことを、ずっとシュミレーションしてきた。梓葉が卒業式を終えたら必ずプロポーズすると。

そして、この卒業の日に、梓葉をうちに泊めてもいいかと梓葉のご両親にも前々から許可を取っていた。

それに、女の子と同じ部屋で一夜を過ごすなんて、梓葉と出会う前から日常茶飯事だったはずだ。

なのに……。

こんなに緊張するなんて。

いや、聞いてない。

どうにか普通を装っているけれど、動きがぎこちなくて梓葉にばれていないか心配だ。

気持ちがあるのとないのと、こんなに違うんだって。

28にして気付くなんて、恥ずかしすぎるし、どうしようもない。

梓葉が家から持ってきた、可愛らしいパジャマ。

梓葉が、お風呂から出てきてすぐ「今日の日のために買いました!」なんて可愛いこと言っていたっけ。

「電気、消すよ?」

そう言っても、梓葉は声を出さずにコクンと頷くだけ。

さっきまで、プロポーズされて泣いて少したったらリングを見て「綺麗だ、綺麗だ」と騒いでいたのに。