4月の頭、さすがにまだ半袖は寒いよ。

って、昨日も言わなかったっけか、あたし。


「今日の晩メシ、ビーフシチューって約束するなら起きる……」


薄く開けた目と視線が絡む。

約束するなら、って、なんでそんなに上から目線よ?


「今日は肉じゃが作ってあるから、ビーフシチューは明日作るよ」

「……じゃあ起きねぇ」


ぷいっと顔を逸らして、彼は再び丸まってしまう。

子どもか! それも、子どもよりも限りなく!


「明日は絶対。ポテサラも作るから」

「……たまごは?」

「入るよ、入れる。だから早く起きて」


机の上に取り付けられた時計をちらりと見上げると……げっ! もうこんな時間!?


「あたし、もう戻るからね! ちゃんといつもの時間に出てくるんだよ!」


そう言い置いて慌ただしく部屋を出て行こうとしたあたしの腕を、大きな手が引いた。