翌日の昼休み。
有紗へのいつもの報告会。今回は…内容が濃い。

「有紗、やっと話せるよ…」


教室では話せない、昨日の出来事。
親友の有紗にはきちんと話しておきたい。

「まず昨日、嫌な予感がするって言っていたけど。正直なところどうだったの?」
「実はね…」

昨日数学科準備室に行ってからの話をした。
部屋に早川先生がいて、足にヒビが入る怪我をしていたこと。
怪我の原因は、伊東に喧嘩を売ったこと。
伊東は表向き長期出張だが、本当は謹慎だということ。

「凄いね。真帆の直感当たっていたんだ」
「そうみたい」

そして、早川先生とキスしてお互い好きだと伝えたことと、帰り際に伊東と会って(ひと)波乱(はらん)あったことを話した。


…ってこれ、全て昨日の放課後に起こった出来事?

振り返りながら口に出すと内容が濃すぎて我ながらビックリする。







そして一通り話し終えて有紗の方を見ると…泣いていた。

「え!? 何で泣いているのさ」
「だってぇ…だって…早川先生男前過ぎるよ…いないよ、そんな人」


何で七三分けなんだろ…勿体ない。有紗はそう言いながらサンドイッチを口に運ぶ。

男前かな?

先生、意外と泣き虫だけど。…これは黙っておく。




「しかも何、キスしてお互い好きと伝えたって…。付き合い始めたってこと?」
「うーん、それはどうなのだろう」

そういえば、付き合おうとは言われていない。
お互い好きと言い合っただけ。でも、両思いでキスまでしたなら付き合っているも同然? ……分からない。

「…ちょっとぉ! 何を想像しているの! 顔真っ赤だよ!」
「え、そう?」

とか言いつつ。耳まで火照(ほて)っていることは容易に分かる。



「というかさぁ、伊東先生の方よ。早川先生から手を出したとはいえ、怪我するまでやるかね?」
「普通はしないと思う。…昨日会った時、伊東のことが怖かったんだ。私、一時的にでも伊東のこと好きだと思っていたこと、少し後悔した」
「一目惚れだったのにね」
「うーん」

かっこいい人だけど、性格は最悪だったなぁと心の中で思う。
人は見た目じゃないということを痛いほど実感した。

「結局のところ、伊東先生は真帆のこと好きだったの?」
「え」

………そういえば、気になるって言われてから特に何も無い。

「さぁ…。伊東の行動がどういう感情から来るものだったかは私には一切分からないけど。でも言えることは、今の私は早川先生が好きだから。伊東が何を言ってきてもこれ以上は何もない。それだけのこと」




そう言いながら空を見上げる。



青空に浮かぶ白い雲。中庭に植えられている木々たちは赤や黄色に色づいていて、風が吹く度に音を鳴らし、ひらひらと舞い降りていた。