考査週間が無事終了し、答案用紙の返却まで済んだ。


そんなある日の放課後。
私はまた、数学科準備室に居た。

「……………」
「ふふ、お待ちしておりました」

私を呼び出した張本人(ちょうほんにん)は微笑みながらプリントの用意をしている。

「またここに来てしまいました」
「想定内ですよ」

29点。今回の数学は29点だった。あと1点で赤点回避できたのに!!

惜しかったなぁ…。


「藤原さん、今日からまた補習をしましょうね。そして…」
「そして?」
「期末は再試をやりません」
「え、本当ですか!」


やった! 再試が無いのは嬉し過ぎる。補習さえ頑張れば良いのか!


「その代わり」
「ん?」
「夏休み、毎日補習をします」
「…え?」

早川先生は少しずれた眼鏡を直す。

…え? 夏休み毎日?



びっくりし過ぎて口が(ふさ)がらない。


この人、正気(しょうき)!?

「ちょっと、先生! 私の夏休みを全部数学で埋める気ですか!?」
「はい。藤原さんは帰宅部だし。僕も部活を持っていませんので。丁度良いと思いませんか?」

はい、じゃないよ!!!
何言っているの。私の夏休みは!?

「藤原さん、不本意(ふほんい)かもしれません。しかし、前にも言いましたが、藤原さんは理解に時間が掛かります。1学期の復習をして、2学期の予習まで出来たら良いと思いませんか? 僕は、数学で藤原さんが苦しまないようになって欲しいのです」

まぁ、補習をしても赤点を回避できると思いませんが。と付け足した。




早川先生は凄く私のことを考えてくれている。


悪く言えば、大きなお世話だが。…そんなこと言えない。



「…分かりました。高校は義務教育ではないのに、ありがとうございます」
「いえ、僕の勝手ですから」



私の机の上にプリントの束を置いて、先生も席に着いた。

「藤原さんは、数学以外の成績はかなり良いみたいですから、数学で足を引っ張って欲しくないのです。まだ1年生だから実感が沸かないかもしれませんが、進学にしても就職にしても、何するにしても成績が付いて回るのです」

確かに…。実は中間も期末も数学だけ赤点だったが、それ以外の科目は全て90点以上だった。
我ながら極端(きょくたん)すぎて呆れる。

「だから、頑張りましょう。補習は嫌かもしれませんが、楽しい夏休みにしましょう」

そう言って優しく笑ってくれた。