【日明財閥】

 それはもう、幼い頃からうるさく聞かされていた名称やった。

 日明財閥はこの春暁街一帯を統一し、支配下に置き、皆から讃えられている。

 せやけどトラブルや万一に備え、日明財閥の素顔は誰にも知られてへんかった。

 ……俺はそんな財閥の長男であり、普段は“明暮聖来”として生きている。

 将来は祖父のように春暁街を纏めながら、ひっそりと代表としての責務を全うする運命にあった。

 別に日明財閥を継ぐのも、素顔を隠しておくのもどうでもいい。

 情報が洩れでもしたらやばいのは分かっとるし、日明財閥の人間だと誰にも悟られないようできる限り人と関わらずに今日まで生きてきていた。

 一般人が日明財閥と関われば碌な事にならへん。下手すれば、命を狙われる危険性だってある。その話は、事あるごとに祖父から聞かされていた。

 祖父がまだ高校生だった当時、祖父は日明財閥に内緒で一般の女生徒と恋をしていたらしい。

 お互いぞっこんだったようで交際は順調、この先も何事もなく生涯を共にするとばかり……思っていたそう。