――ドクン、ドクン……。


途端に心臓が騒ぎはじめた。

キスされても動じなかった心が、漢字3文字の言葉を聞いただけで、息を吹き返したみたいにうなりを上げる。

美蘭蝶というのは、それだけすごい場所なんだ。



「――で、それ以降の記憶はないってわけね。困ったな」

「困った……?」


黛藍良はベッドから立ち上がると、わたしに背を向けるようにしていた身をくるりと翻した。


グレーの虹彩がきらりと瞬く。

その手には、いつの間にか黒い金属物が握られていた。


――カチ。

スライドを引く音。



「俺がだれで、ここがどこなのか。どうしてここにいるのか。思い出してもらいましょうか、眠り姫」


黒い金属物――拳銃の口をわたしに向けて。




黛藍良はやっぱり、卑しく笑った。