彼女という役目も何も果たせず、貰ったワンピースを着る機会もない。
エアコンも無いアパートには暑さのせいでおとなしいお父さん、二人でいる事が無さすぎて諦められたのか全く現れない記者。

たまに来る加南子や他の人からのLINE。

あまりにも平和過ぎて落ち着かない。


朝の定食屋、終わってからの引っ越し屋さんのバイト、夜のファミレス。
忙しくて目が回るというより、増える収入が嬉しくて逆に張り切ってしまう。


「幸っちゃん身体壊すわよ?」


働き過ぎて心配するママさんと店主だけど、特別痩せる訳でもない。ご飯は毎朝ここで食べさせてくれるし、引っ越し屋さんのバイトはお弁当が支給される。

学校に行くよりもお腹は満たされているし、むしろ健康。
なんなら財布も満たされている!!



携帯で黒川君の名前を検索すると、勝手に誕生日が表示され、たまたま近い事を知って、今までのお礼とお祝いにプレゼントをしようとこっそり決めた。
誰かに何かを渡すのが初めてで余計に頑張れる自分がいて、自然と声も大きく出た。



「いらっしゃいませー!!」