とりあえず保険証…お薬手帳…ない。ない。何処!?
あった筈の場所に無くて、どうしたらいいのかわからない。

きっとお父さんが何処かにしまいこんだんだろう。



ガチャガチャと部屋中を見渡しても、未だに混乱している頭では上手に探せず、救急隊員の一人が私に声をかける。


「お父さん、アルコールの匂いがしていたけど飲んでたのかな?」
「…多分。いや、絶対…。」
「そうか。あと何かわかる?」
「お父さん…アルコール依存性って病院から言われている筈です。」
「分かりました、ちょっと待ってて。」


声をかけた隊員が、救急車の車内にいるメンバーに伝えているのか一度その場を離れてまた戻ってくる。


「一先ず搬送先の病院が決まりましたので向かいます。こちらにどうぞ。」

誘導された車内には沢山の機材やモニターに囲まれ、酸素マスクをつけたお父さんが未だに意識が無く横になっている。

「お父さん!」
「落ち着いて、触っちゃ駄目です。大丈夫ですから。」


お父さんが寝ているストレッチャーの横に座る椅子があり、隊員と一緒に病院に向かう。

白くて明るい車内のライトで見るお父さんの顔は、こんなに黄色くてげっそりしていたの?
アパートの電気の色は、オレンジっぽくて一つしか電気をつけないから余計に気付かなかった。

意外と揺れる車内、ストレッチャーの鉄の音がガチャガチャと音を立てる。


お願い、助けて。

私なんてどうなってもいいから、お父さんを助けて。



お父さんを助けて!!


到着した病院、連絡を受けていた看護師達がバタバタとお父さんを運んでいく。私に気付いた看護師さんの一人が「こちらでお待ち下さい。」
と、案内される。

白い壁、白い廊下。
ピンク色の長い椅子に、慌ただしく動いていた一連の流れに、一瞬時が止まり一人ポツンと座らされる。