必然的にレインの周囲に人はいなくなり、レインは孤独になった。

「こんにちは! レイン様!」

 オリバーの腕に自分の腕を絡ませながら、レインに先んじてレインに声をかけてくるヘンリエッタ。
 そのヘンリエッタは今日もレインの上から下までをじろじろと眺め、そして勝ち誇った顔でふふん、と笑った。大きな胸をオリバーに押し付けて礼も取らない様子に、レインは静かにため息をついた。

「コックスさん。身分が下の者から上の者に声をかけるのはマナー違反です。授業で教わったでしょう」
「そ、そんな……私、あいさつしただけなのに……」

 ヘンリエッタは涙ぐむ。それを見たオリバーがレインをにらみつけた。

「レイン! ヘンリエッタはまだ貴族になって間もないんだ、そんなに強く言うものではない!」

 強く言ってなどいない。普通の声音だ。

 レインだって、ヘンリエッタが下位貴族出身の自分を侮り、まったく授業を聞かないのだ、と嘆くマナーの教師に頼まれていなければ指摘せずやんわりと流しただろう。

 けれど、レインが教師の頼みを聞かず、オリバーと不仲だと知れ渡れば――もはやそれに関しては手遅れな気もするが――ユリウスに迷惑がかかるかもしれない。

 しかたなく指摘をしたのに、当のヘンリエッタからはこんな反応をされ、オリバーには敵意を向けられる。周囲にいるオリバーの側近たちもレインを睨んでいて、針の筵だ。