「……今日も、よく頑張ったね」
「ありがとうございます、お兄様」

 兄は今日もいつもと変わらず、レインを愛してくださるけれど、レインが婚約したことで、ユリウスへの婚約を求める声が大きくなっていった。レインはそれを他者から聞くたびに胸が張り裂けそうになった。

 兄の隣に並ぶ女性。それは確実な未来の光景なのに、それがレインではないというだけで苦しく、重い気持ちになってしまう。レインは、まだ見もしないユリウスの婚約者に嫉妬して、どんどん沈んでいった。
 それでもよかった、一年、二年と過ぎるうち、その苦しさにも慣れてしまったから。

 そんな日々が変わったのは、三年生になってから。あの少女――ヘンリエッタ・コックスが入学してきてからだった。
 長く広い廊下を一人ぼっちで歩いていると、オリバーとその側近に囲まれた少女が歩いてくる。薄桃色の髪に青い目をした彼女は、入学すると間もなく、オリバーやその側近らと親しくなったヘンリエッタだ。

 最近平民から男爵家の養女となった彼女の話は、王族育ちのオリバーには新鮮らしく、婚約者であるレインを置いてまでオリバーはヘンリエッタにかまうようになった。