「イリスレイン……!」
「ああん、ああん!」

 イリスレインの泣き声と、彼女を守ろうとした青年の声が庭園に響く。助けはまだ来ない。
 メイドの手により、周囲から使用人が離れていたのだった。

「イリス、レイン、殿下……!」

 這いつくばるようにして王配のもとへ向かう。イリスレインを呼んだのを最後に、彼はこと切れていた。
 美しいだけと揶揄されていた青年だった。子爵家の次男だった。先代女王の希望のみで王配になった男だった彼は、城での立場は弱く、よく陰口をたたかれていた。その美貌で女王に取り入ったのだと。

 けれど、彼は勇敢だった。優しい男で、ユリウスにも親切だった。こころから女王と娘を愛していた。
 そして、イリスレインを救おうとし、ユリウスを守って死んだのだ。

「ああ、ああああ……!」

 ユリウスは、最初、その煩わしい声が自分のものだと気付かなかった。
 絶叫に近い慟哭、それを聞きつけて護衛兵がやって来た時には、もう暴漢の姿も、イリスレインの姿もありはしなかった。