ユリウスの顔が疲れて見える。そんな顔をさせたくなかった。
 そうだ、この婚約を受け入れよう。そうして、この兄への想いを心の奥へ、奥底へしまいこむのだ。そうして、兄には王妃の外戚という身分をささげよう。

 ――お兄様にいただいたすべてを、今、お返ししなくてはならない。

 レインは膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。

 馬車の外は夕暮れだ。晴れていたのに、今、空は曇って雨の匂いがする。
 ――雨の日に見つけたから、お前はレインと言うんだよ。
 そう、私はレイン。雨の日に救われたレイン。アンダーサン公爵家の、養女。

 だから、兄にいただいたこの名前さえあれば、恋を隠して王家に……オリバーに嫁げる。
 そのために、一生を捧げてもいい。兄にもらった命だ、兄にいただいたすべてだ。それを、お返しすることくらい、なんてことない。