元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される


 レインが微笑むと、ユリウスは心配げに眉根を寄せた。
 ユリウスは心配症だ。このくらい、すぐに治るのに。

「念のため冷やしておこう。あちらに保健室がある」

「ねえ、ちょっと待ってくれないか。レイン、その子はレインというのか。もしかして先代公爵が養女にしたって噂の?」

 周囲にさざめきが広がる。養女、という言葉だけで、周囲の視線の温度が侮るようなものへと変化したのがわかった。

 ユリウスの舌打ちが聞こえる。
 兄がこんなに怒っているのは、レインをタンベット男爵から救い出してくれた時以来だ。
 良くないことだろうけれど、レインは、ユリウスが自分のために怒ってくれることが嬉しかった。

「……今から、保健室に行くのですが」
「大丈夫だろう、ちょっと赤くなっただけだ」
「……殿下がそれを言うんですか」