「好きな……花……」

 レインは口ごもった。レインの好きな花は、この庭には似つかわしくないような大衆的な花だったからだ。

「タンポポ……」

 ひもじいときに食べていた花だ。葉も根も花も食べられて、しかもほかの草より苦くない。

「かわいくて、小さくて……私を助けてくれた花だから……」

 タンポポを齧っていたのはひもじいからだったけれど、一番はそれがあるのかもしれない。
 レインはいつもおなかをを好かせていて、いつ飢えて死んでしまってもおかしくはなかったから。レインがうつむくのに、ユリウスがはっと顔を曇らせる。レインに、タンベット家のことを思い出させたと思ったのだろう。