「はい。たったひとりの幼い姫様を亡くされて、心労がたたって亡くなったとお聞きしております」
「姫君は、亡くなったのではない、誘拐されたのだ」

 アンダーサン公爵が厳しい顔で言う。ユリウスは公爵の隣で手を握りしめた。八年前のあの日、誘拐犯の手により、ユリウスの手のひらからすり抜けていった、小さい、愛しいだけの少女を思い出して。

「まさか……」

 家令ははっと息を呑む。
 アンダーサン公爵が頷き、それですべてを察したのだろう。胸を押さえ、驚いたように目を見開いている。

「……レインの目は、赤い。けれど日の光が当たると、虹が浮かぶように七種類の色を浮かべるんだ」

 ユリウスは小さく、声を潜めるように言った。この家令は、ユリウスが生まれる前から務めている、忠義にあつい男だった。