どん、と突飛ばされて、レインはたたらを踏んだ。今日のこの卒業パーティーのために新しくあつらえた靴はヒールが高い。ぐらりと傾いだ体に、あ、転ぶ、と思った瞬間だった。

「レイン、大丈夫か!」
 
 ――ああ、いつだって、あなたは私を助けてくださる。

「お兄様」
 
 抱き留められ、レインはほっと息をつくように、その人を呼んだ。レインよりも濃い青の髪――透き通る眼鏡をかけたその人は、眼鏡越しでも周囲がため息をつくほどに美しい。
 
 均整の取れた体をしていて、その腕は今、レインを強く抱き留めてくださった。
 
 切れ長の目を心配そうに揺らし、レインを支えるその人は、ユリウス・アンダーサン。レインの血のつながらない兄にして、若くしてアンダーサン公爵家を継いだ、氷の公爵様だった。