「男爵、この子は我々が引き取る。これは決定事項だ」
「な……公爵閣下、それは」
「奴隷の売買、使役はこの国の法で禁じられている。男爵位をもつ貴殿が知らないはずはあるまい。詳しい話はまたの機会に聞こう」

 アンダーサン公爵の言葉には、おだやかだが有無を言わせぬ迫力があった。何が何だか分からないうちに、話は終わったらしい。
 タンベット男爵はうなだれ、男爵夫人は公爵の迫力に圧倒され何も言えないでいる。
 パトリシアが呆然とレインを見ていた。
 雨がざあざあと降っている。ユリウスは、その雨からすらレインを守るように抱きしめ、庭園の向こう、邸の門に見える馬車へと歩みを進めていった。レインは、それを熱に浮かされた体で、ぼんやりと――夢を見ているように感じていたのだった。