やっぱり、パトリシアお嬢様とご主人様だ。甲高い、きいきいとコウモリの鳴くような声は親子でよく似ている。
少年に抱かれているレインを見て、ご主人様は目を見開き、お嬢様はあんぐりと口をあけ、そうして同時に悪魔のように目を吊り上げた。
「名無し!何をしているの!ユリウス様の服が汚れているじゃない!」
「そうだ、それにお前、干し草小屋から出てくるなと言っただろうが!」
ご主人様のこぶしが勢いよくレインに振り下ろされる。しかし、それがレインにぶつかることはなかった。
ご主人様のぶよぶよのこぶしを、少年――ユリウスというらしい――の手が、がっしりと掴んでいたからだ。
「ゆ、ユリウスさま!どうして」
「お前たち、今、この子に何をしようとした……?」
ユリウスが、ひんやりとした声音で言う。それは先ほどの柔らかいものとは真逆で、まるで氷のように底冷えのする声だった。



