オリバーが叫ぶ。裏返った声は狂気的で、オリバーの青い目が血走っている。尋常でない様子に、レインはアレンを抱きしめる腕に力を込めた。

 オリバーがヘンリエッタに唾を吐き捨てる。

「いいよなあ、お前は、先代女王の攫われた子供ってだけでお涙ちょうだい。慕われて、女王になる……王になるはずだったのに、俺にはこんなゴミみたいな妄想女しか残らない!」

「訂正してください! ヘンリエッタはゴミみたいでも、妄想女でもないわ!」
「ああ……そうやって、きれいごとでこいつのこともたぶらかしたんだな。奴隷が調子に乗りやがって」

 もはやあの王子然としたさまはなりをひそめ、乱暴な様子で口から唾を吐き散らかすオリバーに、アレンは怯え、ヘンリエッタは震えている。這いずるだけのヘンリエッタからオリバーはもう興味を失ったのだろうか。

 その足で、まるで絨毯でも踏むようにヘンリエッタを乗り越え、レインに近付いた。生魚のような息がレインに吹きかけられる。
 レインは眉根を寄せ、静かに、オリバーに向けて口を開いた。