「わ、私、は、だって、ヒロインのヘンリエッタは、みんなが好きで……」
「ねえ、それは『ヒロイン』の話でしょう? 私はあなたと話しているのよ」
「――あ、ああああああ!」
突然、ヘンリエッタが悲鳴のような声をあげた。
頭を押さえてしゃがみこむヘンリエッタが、髪を掻きむしりながら叫ぶ。
「だって、お義母様がそう言ったの! ヘンリエッタは愛されるって! 私が失敗するとお義母様は怒った! ヘンリエッタはニンジンが嫌い、だから残しなさいって! 『私』はおかあさんの作ってくれるニンジンのスープが好きだったのに!」
ヘンリエッタの髪がぶちぶちと抜ける。桃色の髪が指に絡み、血がついている。
「おかあさんが、あなたは大丈夫だからって私をお義母様に渡したの! 口止めに、たくさんの金貨を渡されて! 毒を飲まされて、あんなにぼろぼろの体で、おかあさんが殺されちゃうから……子爵家に行きたいって私が言ったから! だから私は大丈夫じゃなきゃいけないの! 幸せにならなきゃいけないの! ヘンリエッタじゃないとお義母様は間違えたって思っちゃう! 私とヘンリエッタを間違えたって! ……おかあさんが殺されちゃう!」



