「そう、私は王太子妃になって、あんたは死んで、そしてあんたがいなくなるから、ユリウス様は私のものになる」
「ユリウス、が?」
「今は『バグ』なの、『不具合』なの。ゲームの『システム』が少しおかしくなってるだけ。だって本当のゲームではユリウスはヒロインのヘンリエッタを好きになるものなんだもの!」
「ユリウスはものじゃないわ!」

 とっさにレインが口にした言葉に、ヘンリエッタはぎょろついた目をレインに向け、つかつかと近寄ってきた。がし、と前髪を鷲掴まれ、レインは呻く。

「う……ッ」
「なあに? さっきからユリウス、ユリウスって呼び捨てにして……。まるでまるでヘンリエッタと結ばれたあとの、ヒロインからユリウスへの呼び方じゃない。あんたが……悪役令嬢がユリウスと結ばれるはずないでしょ? ふざけてるの?」

 どん、と突飛ばされ、レインはアレンを抱いたままたたらを踏む。
 衝撃に目を覚ましたアレンがぐずりはじめ、ヘンリエッタはそれに片眉を上げた。

「何、モブの第二王子が、どうしてここにいるの?」
 今までアレンの存在に気付かなかった様子で、ヘンリエッタが首を傾げる。
「ふええん……」
「大丈夫よ、アレン王子」
「それ、アレンっていうの? ゲームのシナリオには出てこなかったから、知らないのよね」
「……あなた、何を言ってるの……?」

 レインはぞっと背筋を震わせた。
 アレンを同じ人間だと思っていないようなヘンリエッタの言葉が理解できない。